第13話
(アイツは何も…言ってなかった…)
『話したい事、沢山あったのに伝える勇気が無くて…』
(やっぱり、何一つ変わってなかった…)
『私の事、覚えていてくれて ありがとう』
『先生が引き合わせてくれたのかな…ちゃんと、言いたい事は言っておきなさいって』
(聞きたい事は沢山あった)
『小笠原! また、会えるか!?』
(お前はどうしてそんなに…泣きそうな顔をしているんだ? って)
『ヤダ』
『嫌』
『さよなら』
(死ぬのが、分かっていたんだな…)
先生と、どんな話をしていたんだろうか?
その中に、俺の話題はあっただろうか?
あの頃の俺を、懐かしんでくれていただろうか…?
「葬儀は済んでるんだってさ。身内だけで済ませたかったみたいで、何かぁ…
小笠原の遺言だって話だよ」
「遺、言?」
「良く分かんねぇけど、病床に言ってたらしくて。
どうせなら、笑顔を覚えていて欲しいなぁ、とかって。
誰にとかまでは うわ言で分からなかったってけど、俺的にはぁ…お前なんじゃねぇかって。
小笠原、先生とずっとお前の話をしてたらしいから、きっと…うん。絶対」
クソ。早見、お前は救世主か?
俺の知りたかった事を、自信満々に言って聞かせるなよ…
頭の中に浮かぶのは、小笠原の笑顔。花のような笑顔。
(最期まで、手の届かない女…)
部屋の窓に、雨粒。ポツポツと。次第に、ザァザァと。
『さよなら』
雨は、死者への餞。
「今度、墓参りに行くよ」
笑顔のキミを忘れずにいたいから。
End
餞 ―はなむけ― 坂戸樹水 @Kimi-Sakato
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