アーティファクト[悠久]第一層
「あっ、がっ、ぐっっっっっ」
少女は頭の激しい痛みで起きた。その痛みは何度も頭を殴られてる感覚に襲われる。
頭の繊維がぷちぷち潰れる事まで感じて苦しみもがくが、痛みが治るまで頭を抑えるしかできなかった。そして次第に手足がビリビリと麻痺してきて頭の感覚がおかしくなるが、殴打の痛みが終わる事はなく意識が途絶えた。
少女は何度目かの意識を取り戻した時には何時間たったかわからないが、やっと痛みが治ったので周りを確認した。
すると、最初に目を覚ました場所の景色に戻っていたのである。頭をぶつけたわけではなさそうで、さっきの痛みがどこからきたのかがわからない。
頭を触って確認するが、怪我はない。
自分がおかしくなった感覚に陥った気がして頭を掻きむしった。
「いったい何が・・・」
少女は思い出せるのは、何度も小鬼に殴打されて殺された記憶である。
「!?」
その記憶に吐き気を催して、嘔吐を繰り返した。
「ッ!?・・・はぁ、はぁ、はぁ」
すでに吐く物がないのか、胃液だけが垂れる。
少女は頭がおかしくなりそうになった。なんでこんな事になってしまったのか。
いくら悩みと言う池に石を投げたところで、それは栓なきことなのはわかっている。
しかし、思考を回転させてないと自分がおかしくなってしまいそうだった。
しばらく思考の海を漂った後、こんな所でいつまでも止まっている訳にはいかないので先に進む事にした。
慎重に進むも、既にみた同じ景色が続いていた。その景色と同じく、触る壁の感触もはっきり思い出せる。
前と同じように小鬼の場所まで行くが、小鬼はやはり踊っていた。
少女は前には怪我をしたので慎重にならざるおえなくなる。その為、小鬼を観察した。
小鬼は踊りに踊った。踊りに統一性などなく、神に捧げるための踊りなのか、そもそも小鬼に神を信じる心があるのだろうか、その踊りに意味もないであろう。
少女がしばらく奇妙な踊りを眺めていると、奥から小鬼がもう1匹出てきたのである。
「ギャッギャッギャギャッ」(暇すぎて踊るしかねぇな)
「ギャッ!ギャッギャッ!ギャギャッギャッ」(おい!まじめにやれ!さもないとあのお方にぶちのめされるぞ)
小鬼達は何かを話しているが、少女には全く理解できない。彼らに言語能力があるのかすらわからないが、意志を疎通する何かがあるかもしれないと感じ取っていた。
奥からやってきた1匹の小鬼はまた奥へと引っ込むと、踊っていた小鬼は項垂れた。
少女はここしかないと思い、ひっそりと背後に近づいた。
「ギャッギャッ」(めんどくせぇな)
小鬼がそう呟いた瞬間、背後に迫った少女はワンドを振り上げて、綺麗な一撃を小鬼の後頭部にぶつけた。
「ふんっ!」
「ギャッ!」
小鬼は小さく鳴くと昏倒した。
「はぁ・・・はぁ・・はぁ」
少女は軽く息を整えると、周囲を警戒した。
(もう一匹潜んでたはず!)
先程、奥の方に消えた場所を睨むが、特に変化は起きてないようだ。
「ふっ!!」
それを確認し、改めて小鬼にワンドを振り下ろしてトドメを刺した。
少女は前に来た時よりもさらに慎重に壁つたいに進むと、不意に壁が消える場所があった。
その壁がない場所には別の道があるようだった。
前に来た時には気が付かなかった場所である。
その場所に蝋燭をむけてみると小鬼がこちらに突進してきていた。
「ギャギャギャギャギャー!」
何かを叫んでいるが、それが何を意味するのかはわからない。
「くっ!!」
少女は慌てて小鬼の突進を、ワンドを使って右側にいなした。
少女はすぐさま振り向き、正面にいる小鬼をどうするか頭を巡らせた。前回は無我夢中だったからわからないけど、対峙して初めてわかる。
相手に対する恐怖や畏怖、それによって生まれる緊張感、さらには相手の威圧を肌に感じる。例え弱いと言われている小鬼。しかし、その力は少女を殺すには十分の弱さではある。
握っているワンドに僅かに力を込めて指を動かそうとするが、縛りつけられたように動かない。
前回に殺された恐怖を身体に刻み込まれているせいか、身体が思うように動いてくれない。
その反面、身体は動かないからこそ思考は回る。
(前は相手がびっくりしてくれたからうまくいった。だったら何とか相手の隙をつけないだろうか・・・でも身体が、指の一つさえ思うように動いてくれない)
少女には一つ一つの動作が遅くてゆっくりで、1分1秒が長く、数時間経った感覚になるが、対峙して数秒である。
「ギャギャッ!」
少女が思考を働かせている間に、対峙していた小鬼が突進して棍棒を右から振るってきた。
先に動いたのは小鬼、もともと頭が良いわけではなく、本能で生きているような小鬼は何も考えずに行動にうつしたようだ。
対して少女はまったく動く事ができずにいた。
「っ!!」
小鬼が振るった棍棒が少女に当たる––––––––
瞬間に、カツンッ、っと鈍い音ではなく、乾いた音が鳴った。
少女は何とか身体を守るための防衛本能が働いて、ワンドでぎりぎりに受け止めた。
「ギャッ!?ギャギャギャッ!!」
小鬼はすんでのところで受け止められたのに驚いた様子で2撃目が飛んでこない。
少女はこれ幸いにと、さっきの反応で身体の緊張が解けたようなので、少し後ろに下がって距離を取った。
「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ・・・」
少女は息を整えると、ワンドに力を込めた。
(今度はちゃんと動いてくれる。相手は魔物、大丈夫、大丈夫)
少女は自分に大丈夫と言い聞かせると、蝋燭を置き、自然に身体が動いた。片足を後ろに擦り下げて身体を前方に傾けてからワンドを上に構えて目を閉じた。
目を閉じるのは一見無謀な行為だが、少女には大事な瞬間であり、行為である。
達人が極限まで集中するために目を閉じる事があるが、少女は達人でもなく、昨日までぬいぐるみを握って遊んでいた少女だ。
彼女に足りないのは集中力ではなく、覚悟であった。
少ない命のやりとりで少女は悟っていた。頭では理解はできないが、心では必要だと理解していた。
時間にして数秒だが、少女は目を見開くと同時に小鬼に向かった。
「––––––––」
少女は何かを叫んだが、何を叫んだかはわからない。
少女の突進に小鬼は防御の姿勢をとっていた。いや、とらざるおえなかった。
少女の顔が小鬼にとって自分の上位の存在である鬼に見えたのだ。
「ギャギャッ!ギ–––––––」
少女の頭上からの振り下ろしで瞬時に小鬼は絶命した。
小鬼は確かに防いだのだが、少女の上段からの打ち下ろしは小鬼を簡単に、豆腐でも潰すように叩き潰したのだ。
「・・・・」
ぱちぱちぱち
小鬼を倒した瞬間、周囲から奇妙な音が鳴った。
拍手のような音が聞こえて少女は咄嗟に構え直した。
周囲を確認するも、誰の気配も感じられない。
少女は気のせいだったのだろうと思い直した。
「とりあえず、あの看板を確認しなきゃ」
少女は気持ちを切り替える為に声を出した。
看板までの距離は50mぐらいだったが、何もなくたどり着いた。
すると、看板のある場所は少し開けていた。
半円の大きさの部屋のようで、周囲は比較的に明るくて、前と看板のある左手に道があった。
看板には左手に誘導するように表示されていた。
少女は少し悩んだ末に、左手に進む事にした。
左手の道は比較的に明るく、蝋燭が何本も両側の壁に設置されている。
少し曲がりくねった先にそれはあった。
「ようこそ!キツネ商店へ!!」
少女が警戒しながら進むと、曲がるより先に声がかけられた。
その声かけが余計に少女を警戒させて、曲がる事をやめて息を潜めた。
「そないな警戒しなさんなって、別に罠もないし、誰も食べたりせんよ」
その言葉に半信半疑な少女は顔を半分くらい出して視認した。
そこは洞窟に横穴を無理矢理掘ったような感じで、あまり広くないようだが、しっかりした作りで、酒場のカウンターのような印象を受けた。
酒場のカウンターと言っても、下はそうだが、上は鉄格子で、小さな受け取り口が1つあるだけだった。
「おっ!かわいい子じゃない!よっしゃ、初回無料ボーナスだしてあげるんよ!」
少女に話しかけている人物は普通ではなかった。
頭に獣の耳がついており、お尻には大きな尻尾が生えていた。
どちらも毛並みがよく、手入れが行き届いたそれは金色に輝いていた。
「キツネ・・・?」
「キツネと言うても、絶滅寸前のコンジキキツネと言う種族なんよ」
少女は絵本では見たことがあるが、キツネを見た事がなかったのだ。
キツネは妖怪と動物の混ざり物、その妖魔は東の国にのみ生息する貴重な種族であり、祖先の九尾の狐から派生した生物である。
そのため、大陸側では誰も見る事がなかったのだ。
「お客さんは大陸側のおひとかな?まぁ、なんにせよ、これあげるんよ!」
コンジキキツネと名乗る女性は、少女を無視して捲し立ててから布切れを差し出した。
「これは?」
「廃棄処分の布!つまりゴミ!!!」
なぜゴミをテンション高く言うのかはわからないが、少女は布を受け取ると、その布は少女の背丈にちょうど良いサイズであった。
少女は布を手に入れて装備した。
「本当は何も渡しちゃダメなんよ?もし渡したら、こわーい鬼に叱られちゃうんよ・・・まぁ、気にしないで」
コンジキキツネは頭に指を立てて鬼のポーズをしながら面白おかしく伝えようと、百面相になりながらふざけた。
「それはそうと、これが料金表」
そう言うと、一枚の古ぼけた用紙を差し出した。
––––––––––––––––––––––––
によによ団子・・・350銅貨
食糧(揚げおにぎり)・・・8銀貨
キツネちゃんとデート(10階層まで)・・・金貨100枚
キツネちゃんに挑戦・・・無料
––––––––––––––––––––––––
「あの・・・」
「ん?なにかな?」
「お金持ってないので買えないです」
「知ってるよー、説明するね」
コンジキキツネはそう言うと一瞬半透明になってカウンターをすり抜けてきた。
「!?」
その行動に少女はびっくりして目を見開いた。
「ん?ちょっと驚かせちゃったんよ?」
「今のは魔法ですか?」
んー?っと少し悩みながらコンジキキツネは答えた。
「・・・似たようなもんよ。まぁ、説明するからちょっとついてきて欲しいんよ」
そう答えてから、コンジキキツネは少女を手招きして誘導した。
少女が看板前まで連れて来られると、待つように言われた。
「ちょっと待っててね」
コンジキキツネはちょっと近くの売店に行ってくると言った感覚でそう言い残し、少女が来た道に向かった。
色々聞きたいことはあるが、仕方なく待ちぼうけて数十秒。
小鬼の声が聴こえた。
「〜〜〜〜〜!!」
両手両足をだらりとさせた小鬼の首根っこを掴んだコンジキキツネが現れた。
「一応生きてるから気をつけて欲しいんよ・・・っと」
そう忠告すると・・・
バキバキっと、聞いたことのない音を立てながら、片手で顎の骨を粉砕していた。
小鬼は既に死ぬ寸前だったのか、何も言わずに絶命した。
「え〜っと、小鬼の牙は加工しやすいアイテムだから売れるよ」
コンジキキツネは一瞬で小鬼の牙を抜き取った。それは職人技のように鮮やかな手捌き。
「ひっ!?」
少女には多少の冷静さが戻ってきたのか、小さな悲鳴をあげた。
コンジキキツネは悲鳴など無視した。
「次に爪」
コンジキキツネが撫でる様に触ると、綺麗に剥がされて、元から爪などなかったかのようである。
「次に骨」
甲殻類の中身でも出す様に肩から捻り切り、切れた腕から骨を抜き出し、さらに各部位をバラバラにしてから、内臓を抜き出し、綺麗に骨を削ぎ出した。
「頭蓋は脆くて売れないから注意ね」
作業中、少女は奇妙な顔つきで見ていた。
が、作業が終わると安堵した表情に変わった。
バラバラにされた小鬼が骨だけになって、グロテスクな物ではなくなったからであろう。
少女は気になってた事を思い出して切り出した。
「あの、この場所って何なのですか?」
「ん?ここー?ここはね、従業員養成施設なんよ。アーティファクト[悠久]第一層って場所なんよ」
「アーティファクト?悠久?」
少女には聞きなれない言葉ばかりである。
「アーティファクトとは!この世に散らばる大いなる遺産!1個で国を滅ぼすかもしれないパワーを持つアイテム!売ると一攫千金なんよ!」
「はぁ・・・」
少女には要領を得なかった。
それを見てコンジキキツネは続けた。
「1人1個しか使えないけど、アーティファクトは強力な兵器なんよ。強さは千差万別だけどね」
「あの、ここの?アーティファクト?悠久?は誰が使ってるのですか?」
「おっ!気になる?気になっちゃう?仕方ないなー教えてあげるんよ!このアーティファクトは自律型、つまり使用者がいなくても起動したら自動で動くんよ!詳しくは知らないんよ!あははー」
「・・・」
少女はコンジキキツネの答えに困惑した。
「あぁ、ここのアーティファクトの力は、繰り返し生まれるなんよ」
「???繰り返し生まれる」
「そっ、繰り返し生まれるなんよ」
言葉の意味は理解できなかったが、先程体験した事によって感覚的に理解していた。
「第一層って、何層まであるのですか?」
「それは自分で確かめてね」
そう言い終わると素材を回収して、これ以上説明する事はないといった様子で、手のひらを振りながら自分の店へと帰って行った。
取り残された少女はこの場所で初めて言葉をかわせる事に嬉しさと寂しさを感じた。
少女は看板とは違う道に足を進めた。慎重に進むと水が跳ねる音が耳に聞こえた。
石を投げたり、水滴が落ちて鳴る音とは違う、魚が跳ねたような音である。
(水?・・・お魚さん?)
少女には奇妙に思えた。こんな洞窟みたいな所に魚が棲めるような場所があるのかと。
その疑問に答えるように広い場所に出た。
出入り口の足元は四角く切り取られたような足場があり、その足場以外は足元が見えないくらいに掘られた所に水が張っていた。
出入り口の足場以外の陸地は20mほど先にある。同様の四角く切り取られた足場と、その先に扉がひとつあるくらいだ。
少女は戸惑い、立ち止まったまま動かなくなった。
(底が見えない・・・)
宝石のようなエメラルドグリーン色の水溜りに引き込まれそうで恐怖を感じたからだ。
(一度戻って聞いてみようなか)
そう考えて一度引き返して聞いてみた所、コンジキキツネはしょうがないなぁ、っと言った感じの表情をした。
「多くは答えられないんよ。でも、2つだけ教えてあげるんよ!ひとつ!深いところでわっちの腰くらいまでの深さしかないんよ。ふたつ!毒はないんよ。」
コンジキキツネはそれ以上は教えてくれなかった。
少女は何があるかわからない水溜りで立ち往生するわけにもいかないので、意を決して水溜りに足を入れてみた。
「ぬるい・・・」
生暖かく温い水が少女の足に纏わりつくように少女の足を濡らしていく。
それに伴って少女は纏っている布が濡れない様に段々にたくし上げる。白いすらっとした足が露わになり、少女の細く白い太ももまで水が侵蝕していった。
少女は見えない足元を確かめる様に一歩、また一歩と慎重に進む。
少しずつ進むにつれて神経がすり減っていくのと同じく、額の汗が増えていくのを感じる。
(どうか何もありませんように)
知識や力がない少女には心で祈るくらいしか出来なかった。
「いたっ!?」
そんな祈りなど届くはずはなく、少女の希望は激痛と共に打ち砕かれた。
それは足の一部を何かが噛みちぎったのだ。
少女は慌てて前に進むも1歩歩くたびに足が食いちぎられていく。
「痛い痛いいたいいたいいたいイタイイタイいっ・・・」
3歩も歩けば足が骨だけになった。
骨だけの足で体を支えられるわけもなく、全身が水溜りに沈んだ。
「あがっ、ばっ、ごぼっ、ぶがっ」
少女は痛みと息ができないために言葉にならない言葉を放つ。
頭や顔、胸を食い破られようとも意識が痛みを手放してくれなくて、全身が焼かれる様な地獄の様な痛みが襲う。
少女は痛みから少しでも逃れるために叫んだ。
「ッ!!・・・・・」
しかし少女は痛みで叫ぼうにも、既に喉を食いちぎられて声すらでない。
そんな少女の意識は目を食われたところで痛みを手放した。
繰り返す痛みと苦しみ、意識の混濁、私は何度繰り返せば良いのだろうか・・・
そんな事を考える少女の心は体から離れていきそうになる。
少女は両親のために生き延びると言う、か細い精神で短い時を生きてきた。しかし、生死を繰り返す事でそのか細い精神など消えかけていた。
最初の場所に戻った少女は指を動かす事すらできずに、目は焦点が合わず、身体が鉛のよう感じた。
私は何のために生きたのか、なぜこんな事をしているのか、もう全てを諦めたい。
そんな事を考えるようになった少女の精神は限界を迎えていた。
どのくらい時間が経ったであろうか、一瞬だけ風が頬に当たった以外は何の変化もなく、ただただ捨てられた人形のように少女は動かない。
「大丈夫?」
そんな少女に声をかける人物がいた。
それはもふもふ尻尾を持つコンジキキツネであった。コンジキキツネは手に竹の葉を包んだものを持って現れたのだ。
少女はコンジキキツネの問いかけに微かに反応した。彼女とは多少なりと言葉を交わしたからくるものであろう。
コンジキキツネは何も言わずに隣に座った。
「はい」
コンジキキツネはそう言うと、手に持っていた竹の葉の包みの中身を差し出してきた。
その中には三角にしたおむすびが3つと漬物が添えてあった。
「せっかく握ったんよ!食べてくれないともったいないんよ」
その言葉に少女の反応はなし。少女の精神は既に痛みでぐちゃぐちゃで反応を示せる状態ではないようだ。
「そいっ!」
そんな少女の事などお構いなしにコンジキキツネは少女の口におむすびを押し込んだのだ。
「ぶふぁ!?ごほっ、ごほっ、なん、んべ、ぺっ、ぺっ」
押し込まれたおむすびの欠片が口の中に入ると、少女の味覚を刺激して、少女は勢いよくおむすびを吐き出した。
「うわっ、汚いんよ」
「しょっぱい・・・」
「塩が効いてて美味しいんよ、そのおむすびは特に塩盛り盛りなんよ」
塩の濃さには限度があると思ったが、言う気力が湧かなかった。
「よかったらこれ全部食べる?わっちのお昼ごはんなんよ・・・」
少女は差し出されたおむすびを手に取り、恐る恐る口に運んでみた。
少女にとって米は初めて口にする食べ物であった。大陸では基本的にパンが主流で、米は東の国と大陸ではごく一部で食べられる物である。
「はむ・・・!美味しい」
「それはよかったんよ、わっちは稲荷寿司食べるんよ」
「!?」
コンジキキツネは隣に腰を下ろすと、同じサイズの竹の葉の包みを取り出して開けた。するとそこから、黄金色の光が溢れ出した・・・気がした。
気のせいなのに少女は目を手で覆ってしまった。
少女が目を覆ってる事など気にせずに、コンジキキツネは上機嫌に食べ出したのでそれに続いて食事を再開した。
「あなた。魔法は使えるの?」
食事が終わるとコンジキキツネはそう尋ねてきた。メイドとのやりとりを思い出して、あれが魔法らしいから一応と答えた。
「・・・・・」
それを聞いたコンジキキツネは少し悩んだ後、コンジキキツネが着ている。胸を半分だけ出したような着物の谷間から、紙と筆を取り出して、紙に大きな円を描いた。
「魔法だけど、この円から始まるんよ。これが魔法をどこに出すかを決める円なんよ」
そう言うとそこからさらに六角形に線を引いた。
「これが魔力制御する線なんよ」
次に十字に線を引いた。
「これが狙いを定める線なんよ。狙う場所によって移動させるんよ」
次に丸を5つ描いた。
「これが属性強化の円なんよ」
次に5つの円の中に円を描いて、円と円の間に文字を描いた。
「この文字は、この円を使う為に必要なものなんよ」
文字は4つの線から構成されていて、大体は横線か斜めに線が入った物に縦線が3つの構成で成り立っていた。
「文字については日々の研究の賜物らしいんよ。自分に最適にする為に日々研究・・・らしいんよ。まぁ、私は使わないからよくわからないんよ」
次に円の中に何かを描こうとして止めた。
「ここは開眼する場所らしいんよ。だから何もなくていいらしいんよ。」
そう言って少女に向けて紙を広げて見せてきた。
「魔法はこれを頭の中に想い浮かべて使う感じらしいんよ」
一気に幕立てられた少女は一つ一つ思い出しながら聞き返した。
「4本の線は何なの?」
ふっと思った疑問であった。一つ一つ説明があったが、線については説明がなかったからである。
「あー、えー、うぅ?」
コンジキキツネは思い出そうと、妙な顔つきで思考を回転させた。
rinon からあげれもん @matsunodesu
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