五つの精霊の石

はじまりのものがたり


 人間と魔族の戦いはこれで幕が降ろされた。

 

 土の牢から解放された魔族の長ルダは、ランデンとルディア、リリーズとサンズに説得され、アドランから離れた。

 蘇った魔族のうち、一部は結局治癒が間に合わず失われた。けれども戦いをこのまま続けていたら、どうなっていたかわからない。今回のアドランでの戦いの前のように半数以上を失うことになっていたかもしれない。

 ルダは、失った者たち、懐かしい顔ぶれを再び見ることで、戦いを再開することは諦めた。しかし去り際にセンミンに再び人間が攻撃を再開する場合は、全面戦争を再び起こすことになると、宣言するのを忘れなかった。

 

 魔族が去った後、王、王太子、ガルシンを土の牢から出した。

 ウェルファ達を糾弾する王達を制したのは、センミンだ。しかし、それを快く思わない王子らは、センミンの命で金の精霊が魔族の傷をも癒したこともあげて、センミンを責めた。

 責められるセンミンをかばったのはアイルで、王子達が反逆者とアイルを名指し、王が同意したところで、センミンが初めて王に逆らった。


「アイルが反逆者であれば、私も、俺もそうだ。俺は、アドランの名を捨て、唯のセンミンとして生きる。もう二度と、こんな戦いを起こすつもりはありません」

「そうだ。もし魔族を襲うようなことであれば、僕は木の精霊の力を使って、阻止する」

「その時は私と、土の精霊も力を貸す」


 金、木、土の精霊の契約主が次々と魔族側の姿勢を示し、王は呆気にとられる。

 ガルシンは王の背後に控え、ただ黙っていた。


「父上。いえアドラン王。今までお世話になりました」


 センミンは返事もないのに、そう言い深々と頭を下げた。王は目を細めただけ。


「ふん。最後までふてぶてしい奴だな」


 忌々しそうに言葉を発したのは王太子で、王子達も同様の反応だ。

 

「センミン様!」


 背を向けて歩き出したセンミンに声をかけたのは、数人の兵士。だが名を呼ぶのが精一杯。ただ敬礼して見送る。


「アイル。彼を追わないのか」

「え、うん」


 ナルに言われ、アイルはセンミンの背中を追った。

 ナルもその後をゆっくり歩く。


 ガルタンはガルシンを睨みつけ、踵を返す。シアは悲しげに笑いかけたが、叔父の表情が変わることはなかった。

 

「後でマイリのところへ戻ればいいか」


 このまま仲間たちを別れるもよくないとウェルファが苦笑した後、シアの背後に着く。




 センミンとアイルはその後いくつか一悶着を起こしたが、婚姻を結ぶ。

 ナルはアイルにとっては兄、父のような存在。父と口にされた時、ナルはひどく傷ついた。彼自身はアイルのことを妹のような存在として見ており、センミンの人柄には不服があったが結婚を祝福した。

 シアとガルタンは魔族の隠れ里を探し出し、そこで暮らし始めた。

 ガルタンはあんなにいがみあっていたランデンと魔法を鍛錬する仲間になり、ランデンはルディアと、ガルタンはリリーズと祝言をあげた。

 ウェルファはシランの薬屋を閉め、ロウランでマイリと結婚した後、父と同じく町の市長となった彼女を補佐しつつ、薬師の仕事も続けた。


 あの戦いから五年後、再びアドランが魔族へ攻撃。これは王宮内でも揉めた決定で、離反するものが多く出た。離反者は、センミンの元へ集まり彼が王位に就くことになり、戦いは終息した。アイルは王家で水と火の精霊が悪用されることを恐れ、アドランから離れた場所で成人した子供達を巫女としてそれぞれの石を管理させた。

そして他の精霊の石は、

 金の精霊の石をアドランの王が、

 木の精霊の石をガルタンの一族が、

 土の精霊の石をウェルファの一族が管理した。


 ナルが奇跡の星を破壊した時に、そのかけらを保有しており、バルーが火の精霊の石を得て魔王と化した伝承とともに、五つの精霊の物語を語り継く事になる。


 これがはじまりの物語である。


 五つの精霊の石。

 これらが再び集められのは、これより数百年後になる。



 (完)

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五つの精霊の石~はじまりのものがたり ありま氷炎 @arimahien

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