妖に拾われました⑵
僕は走る
長い長い廊下をただ走る
・・・・・・て、
「長すぎるだろこの廊下!!!」
綺麗に磨きあげられた木造の廊下。
さっきから全速力で走っているのに、この廊下の終わりが見えないのだ。
(さっきから誰ともすれ違わないし・・・いったいこの建物はどうなってるんだ?)
いや、逆にそれで好都合だ。
更にレベルの高い妖が現れでもしたら、挟み撃ちにあってしまう。
(・・・今はただ、どうしたら家に帰れるのか考えないと・・・)
ふとそう思った時、僕の足はピタリと止まってしまった。
・・・いやいやまて、帰るって何処にだよ。
僕は思わず、拳をギュッと握りしめた。
帰る場所なんて、何処にもないじゃん。
確かに家はあるけども、あそこは僕の居場所じゃない。
もし僕に居場所があるなら、あんな森の中でさ迷ったりしない。
僕はさっき走ってきた長い廊下を振り返る。
「追いかけては来ないか・・・」
今まで何度も味わってきた妖との追いかけっこ。
学校の登下校とか、校内でとか、至る所で襲われそうになった。
だがそれらは全部、表の世界で起こったこと。
今回の場合、ここは表の世界ではない。
恐らくだが、この建物自体が裏の世界に入っている。
「裏世界での妖は更に力が強いっていうし・・・」
どんなに小さな妖でも、注意しなければならないな・・・・・・
『おやおや、こんな所に珍しいお客さんがいるじゃないか』
「!?」
くそぉ、言ったそばからこれだ。
いつの間にいたのか、僕の左腕には蛇のような形をした妖が絡みついていた。
『見たところ相当霊力が強いの。
霊力が強い人間は美味じャ美味』
口から出たり入ったりする長い舌は、まるで僕をターゲットとしてるかのようにクネクネと動く。
・・・いや、してるかのようにじゃなく、しているのだ。
「・・・あの、そろそろ離れてもらえませんか」
ヌルヌルと尻尾が肌に当たり、気持ち悪い。
『フフフッ、それは出来ぬ相談だ。
なぜなら・・・・・・』
「っ・・・」
一瞬でこの蛇の空気が変わった。
元々コイツが放つ妖気自体あまりよろしく無いのだが、今度は完全に、悪意のあるものに変化した。
「く、くそ!!」
僕は思いっきりソイツを叩き落とした。
『フフフ、ハハハハハハ!
久しぶりの人間じゃ!おいお前ら、生の人肉を食えるぞ!!』
蛇の高笑い混じりの声と同時に、壁や床、天井からゾロゾロと無数の妖たちが姿を現す。
そのほとんどが小物だが、しかしこうも数が多いとかなり厄介だ。
「は、早く逃げないと・・・!!」
完全に囲まれる前に、僕は長い廊下を走り出す。
『クククッ、人間ごときが逃げ切れると思うなよ?』
ここは妖の巣。
逃げ切れる見込みなんて、端からゼロに等しい。
「うわっ!!」
急に廊下の滑りがよくなり、僕は足を取られてしまった。
(ま、まずい・・・!!)
ゾロゾロと近寄ってくる妖たち。
僕という獲物を前に、まるで狂ったように目をギラつかせている。
「くっ・・・誰か!」
恐怖で体に力が入らず、立てなくなった。
「助けて、だれか・・・お願い・・・!!」
・・・「私」は体を縮こませ、手をギュッ握りしめた。
食われるかもしれない恐怖もそうだが、誰も助けてはくれないという絶望感の方が増さり、思わず涙が出る。
思い知らされてきたではないか。
私なんか、誰も相手にしてくれない。
手も差し伸ばして貰えない。
なんとか身体を支えていた腕から、力が抜けた。
私は呆気なく、冷たい廊下に仰向けになる。
「・・・もう、いいか」
もう十分苦しんだ。
これ以上、一人で生きていくのはうんざりだ。
目尻から涙が頬に落ちる。
ああ・・・どうせなら来世は、ごく普通の人間として生まれたいなぁ・・・
そんなことを考えながら、私はゆっくりと瞼を閉じた。
「・・・全く、暫く様子を見てたらこれか・・・」
「???」
上から声が聞こえてくる。
誰・・・?もしかして、私を助けに来てくれた??
い、いや、こんな私を助けてくれるなんて、そんなことは・・・
「ほら、目を開けなよ。
君はまだ、生きてるんだから」
優しく頭の中に響く声。
それに逆らう術もなく、私はゆっくりと閉じていた瞼を開けた。
「やぁ、おはよう」
「・・・・・・」
わたs・・・僕の目の前にあるのは、かなりの美丈夫・・・・・・じゃなくて、あの和室にいた妖の一人だった。
何故かニコニコと楽しそうに笑っている。
「小物とはいえ、彼らがこんなに理性を無くすのは久しぶりだ。
君はかなり、魅力的な人間なんだね」
「・・・・・・っ」
・・・っ、いかんいかん。
妖の言葉に耳を貸すんじゃない!
「ど、どけよ!」
反射的に起き上がろうとしたが、その前に僕の額に彼の手がのせられて、かなわなかった。
「おかしな子だなぁ。さっきまではあんなに助けを求めてたのに。」
そんな所まで見てたのか。
なんて悪趣味な奴!
「僕はあまり人間は好きじゃないんだ。だから本来、君が彼らに襲われそうになってようが知ったこっちゃないんだけど・・・」
額にあったその手は、ゆっくりと僕の頬へと移動していく。
冷たい、でもどこか優しいその手を振り払うことが出来ない。
「ちょっと君に興味湧いたからさ。特別に助けてあげる」
「な、何を・・・」
元々近かった彼との距離が、いっそう縮まった。
かと思うと・・・・・・
「んっ!?」
な、な、何が起こってるんだろ。
く、唇に何か、柔らかい物が・・・・・・・・・
でもそれも一瞬のこと。
彼はパッと私から顔を離すと、小物妖怪がいるであろう方向に視線を向けた。
「さーて、彼らの目を覚まさせないとね」
ようこそ、妖界へ しょしょ @yassan57www
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