ようこそ、妖界へ
しょしょ
第1話 妖に拾われました
(寒い・・・・・・寒いよ・・・・・・)
真冬の森の中で一人、僕は歩く。
目的地も分からぬまま、ひたすら歩く。
帰る場所なんて無い。
形だけのあそこなんか、僕の家じゃない!
ギュー!ギュー!
あぁ、何かの動物が鳴いている
鳥かな?猿かな?それとも・・・・・・
ドサッ
僕の足は限界に達し、力なく崩れ落ちる。
幸いにも下は雪だったため、それほど痛みは感じないが。
(・・・冷たい・・・)
残りわす僅かな体温が、雪によって吸い取られていく。
・・・・・・僕、死ぬのかな?
やだなぁ・・・とても幸せとは言えない人生だったけど、僕も一人の人間だから、生に対する執着はあるんだよ?
それに僕には、夢があるんだ。
(僕は・・・僕は会いたい・・・!!)
会いたいのだ。
唯一僕と血の繋がった、僕の本当の家族に・・・!
もしかしたら、この世にいないかもしれない。
けどせめて、この世界に少なくとも二人は僕のことを愛している人がいたのだと、証明が欲しかったなぁ
段々と瞼が重くなってくる。
多分きっと、この目を閉じてしまえば最後。
二度と開けることは出来ないだろう。
(でも、眠いんだ・・・)
少しだけ・・・少しだけ眠るだけだから・・・・・・
少ししたら、またすぐ起きればいいんだ・・・
目が覚めたら・・・どこに行こうかな・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・。
「んっ・・・・・・ん?」
あれ、なんだか暖かいぞ?
それにとてもフワフワしていて心地が良い。
頭は完全に起きてしまったのだが、瞼をなかなか開けることが出来ない。
『主様、この者を拾ってどうするおつもりです?』
「どうもこうも、俺の気分次第さ」
あ、近くに人がいるようだ。
良かった、この人達に聞けば分かるではないか。
ここはどこなのか、僕は一体どうなってしまったのか。
僕が覚えている記憶の最後は、森の中で雪に埋もれてしまったこと。
そのまま意識を飛ばしてしまい、危うく死んでしまうところだった。
(きっとこの人が助けてくれたのだ。
早くお礼を言わないと・・・!)
だが、その思いに反して体は全く動かない。
『にしてもこの者、かなり霊力があるようですな。食ったらさぞ美味でしょう・・・』
この言葉により、僕の思考は一瞬停止した。
・・・ちょっとまって、僕の傍にいるのって・・・
『主よ・・・この人間、我々が頂いてもよろしいですかな・・・・・・?』
間違いない、さっきは起きたばかりで気づかなかったけど、この禍々しい気配は・・・・・・
「あ、妖!!??」
僕はガバッと起き上がり、反射的に後ずさりした。
ざっと見たところ、ここは約8畳くらいの和室。
その真ん中には、きっと僕が寝ていたであろう布団が置いてある。
そしてその横には・・・・・・
「やあ、おはよう」
「っ!?」
その横には、2体の妖の姿が。
片方はまるで、両生類のような顔をした気持ち悪い妖。
目がギョロっと動いて、こちらを見ている。
『無礼者!!主に向かってそのような態度・・・!』
「まぁまぁ、落ち着いて」
そしてもう片方が、不思議なのだ。
見た目は完全に人間の男だ。けれど僕にはわかる。
彼から放たれる空気が、人間のそれとは全く異なっているからだ。
それはあの気持ち悪い妖からも感じる。
けれど、あの男はそれとは比べ物にならない。
(か、かなりの大物だ)
もしかしたら、今まで見てきた妖の中で、上位に上がるほどの。
(どうしよう・・・絶対に食われる!)
これでも僕は、いくつもの危機を乗り越えてきた。
こうして妖物と出くわすことも多かったし、その度に食われそうにもなった。
でもその時はなんとか逃げ切り、この年まで生きてこれたというわけだ。
(本当に恨むよ・・・僕のこの体質!!)
思わず己の目を殴りたくなる。
この目の体質のせいで、僕の人生は無茶苦茶だと言っても過言ではない。
だからって、失明させる勇気もない・・・
「ほらぁ、お前のせいでビビってるじゃん。
可哀想に」
そう言って男はゆっくりと僕に近づく。
「く、くるな!!あっち行け!!」
ここに物があったら躊躇わず目の前の妖に投げつけてやるのに。
そんなんでやっつけられる類じゃないのは分かってるけど、逃げる隙くらいは・・・・・・
「ほらほら、暴れない暴れない
女の子なんだから、もう少しおしとやかにね?」
「なっ・・・」
僕は思わず絶句した。
な、なぜ・・・・・・
「ん?何故って?
そりゃ、汚い君を隅々まで綺麗にしたのはこの俺だからさ」
・・・・・・こんなに殺意が芽生えたのは生まれて初めてだ・・・・・・
「お前・・・僕を綺麗にして食うつもりだな!?」
「え??」
なんて卑怯な手だ。
風呂に入れて、フワフワな布団に寝かして油断させようと・・・!!
「冗談じゃない!僕は絶対に食われないからなっ!」
「あ、ちょっと待っ・・・・・・」
妖の静止など、耳を貸すに値しない。
僕は近くの障子をパーン!と開け、そのまま部屋を飛び出した。
「やーれやれ、とんだお転婆娘だ」
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