第4話
雪の降る、冷たい日。
凍りそうな教室の、凍りそうな日。
「ナツ…くん」
「もみじちゃん、どうし、」
「ねぇ!!」
「、」
「テンコウするって…本当?」
「え……」
「ねぇ、本当? どこ行くの? なんで行くの」
「ま、まって、もみじちゃん、おちついて」
「いつ帰ってくるの? もう会えないの?」
「まって!!」
「…なん、で……ナツくん、」
「僕だって…僕だってイヤだよ! ここにいたい、だけど」
「……」
「お父さん、お仕事なんだ…」
「……」
「聞いちゃった…お母さんと、お父さんのお話。お父さん、お仕事、失敗しちゃっ
て、イドウだって」
「そ、そんなの、ナツくんには、」
「関係なくないよ。僕は、お父さんにヤシナってもらってるんだ」
「…?」
「僕は、お父さんとお母さんがいないと生きていけないよ。もみじちゃんだって、そうでしょ」
「わたしは、」
「お母さんにやってもらってること、できる? おせんたくもおそうじも、毎日のごはんも全部、お弁当だって全部全部、できる?」
「……」
「僕は、できない。お父さんみたいに、お金をかせぐのだって、できない」
「………うん」
「僕も、ここから離れたくないよ」
「………」
「だから、おやくそく、しよう」
「やくそく……?」
「僕は、
* * *
このあとの予定忘れてます? って不安になるほど。疲れたら食べるって体質なのかな。腹が減っては戦はできぬ?
でもまぁ、なんにせよ、リラックスしてくれているのは嬉しい。
私だけじゃなくて他の子ともお話していたし、そうすればちょっとは緊張ほぐれてくれるかな。
さっき、
藤君が、好きだ。中学の頃は遠目に見ているだけだったけれど、同じ高校に進学出来てクラスまで一緒で。運命に感謝してます。
どこが好きかと言われれば、まず存在って答えるかな。声とか笑顔とかひっくるめて、全部。まだまだ知らないことがあるけれど、好きな人の好きなことは全部知りたいし、好きになりたい。
告白のあとに抱きしめてくれたのも…って、隣に今から告白する子がいるのに、私は何を考えているんだ。
感謝だな、感謝。人生イヤなこともたくさんあったけれど、修学旅行でこんな幸せなことがあるなんて、思ってなかったから。
本当に、感謝だ。運命と、椛ちゃんに。
そうだよ。
藤君と仲良くなれたのも付き合えたのも、応援してくれた椛ちゃんのおかげだ。
今の私がいるのは、椛ちゃんがいるからっていうのは、過言じゃない。
「……次?」
椛ちゃんが、私の顔を覗いて聞いてきた。
はい、次です。夕ご飯も食べ終わったし、今からライトアップ見に行きます。
やっぱ、緊張してる? さっきまでの穏やかさがないよ。
椛ちゃんは分かりやすいし緊張しやすいから。私もけっこう緊張しているけれど、たぶん比にならない。
うん、私も、緊張している。
でもそれは、友達としての緊張じゃない。
ペテンだ。
「やっぱ、告白、明日にしてもいい…?」
なんて。
友達として、ダメって言わなきゃいけない。少しでも早く告白をして、成功してほしいはずだ。本当の、友達なら。
でも、裏切者な私は、1日でも告白が遅くなってほしい。平穏を守りたい。あと1日だって、ピピの仮面をかぶったまま椛ちゃんと話せるなら、それがいい。告白なんて、しないでほしい。
——最悪だ。
喉から出そうになった真っ黒な声を封じ込めて、創りに
「今そうやって甘やかしたら、先延ばししまくって人生終わっちゃうよ」
——最悪、最低だ。
分かってる。私がどんな奴なのかなんて、自分がいちばん理解してる。
この言葉が言われなきゃいけないのは、椛ちゃんじゃなくて、私の方だ。
それに、辛いのは私ではなく私に騙されている椛ちゃんだってことも、大好きなはずの椛ちゃんの首を絞めているのは私だってことも、分かってる分かってる、
分かってるってば、黙ってよ。
「…やっぱ、頑張る」
頑張らなくていいよ、頑張らないでよ、告白なんてしなくていいんじゃない? 本当にナツキくんのこと好きなの? 好きって思い込んで剥がれないとかじゃなくて? ナツキくんは貴女のこと好きだと思うの? 運命だって思ってる?
バカ、バカバカバカ、最低だよ、死ねよ私。
真実を伝えないで上辺だけ応援をして、友情の終わりが怖くて応援をしないで、何がしたいのか意味不明だし、何をしなきゃいけないのかももう分かんないよばか。
「椛ちゃんはそうでなくちゃ」
なんて言って。
私がこう崩壊しているぶん、椛ちゃんには椛ちゃんを保ってほしい…って、なにを偉そうに。
「分かった。純粋に告白ね」
その告白が来る前に、誰か、私を消して。
「では、7時に出口集合になります」
——今日のライトアップ、ナツキくんと回るって。
隣のクラスの、私の友達。
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