第3話




「やめろよっ、その子、いじめるなよ!」



「……へ?」


「しゅくだいは、自分でやるものだぞ」


「そ、そんなことしってるし」


「ひとにやらせても、いみないから」


「なっ…なんだよ! いきなり来て、えらそうに……」


「自分がされてイヤなことは人にしちゃだめなんだよ」


「……」


「あやまって」


「は?」


「この子に、もうイヤなことしないって言って」


「なんでおれらが」


「あやまって!」




——あれは、夏だった。




宿題を押し付けられた私を、助けてくれた。


その日から、私への嫌がらせはなくなった。

 


私は、ナツくんに助けてもらった。


だから私も何か力になりたくて、ナツくんを追いかけていた。


特別に、なりたかった。


ナツくんに「ありがとう」って言ってもらえるように。




   *  *  *




「……次?」

「うん。次、ライトアップだと思う」



 ひ、ひええええ…。



 緊張してきた。いや、緊張してる。うん、まじ緊張してる。


 ご飯、おいしかった。お豆腐、めっちゃ美味かった。


 でも待って、今は、それどころじゃない。ああああでも最高においしかったです。ありがとう。


 おいしかった思い出は綺麗に残しておいて、その、今は……



「どどどどうしようピピ、あとちょっとだ……」

「お、落ち着いてもみじちゃん」



 この状況で落ち着けるか!!


 深呼吸……し、しんこきゅ…。 

 


 なに、え、ライトアップのところについたら、私はナツくんに告白してるの? 


 自分で言い出してなんだけど、信じられない。信じたくない。



「やっぱ告白、明日にしてもいい…?」

「だめ」

「なんで!」

「今そうやって甘やかしたら、先延ばししまくって人生終わっちゃうよ」



 人生終わっちゃうって……。


 まぁ…確かに、ピピのいうことは、正論だ。


 明日やろうはバカ野郎ってもいうし、明日なにがあるかなんて分かんないし。



 うん。そうだ。そう。


 今日、あのお寺と紅葉で、告白するって決めたから。



「…やっぱ、頑張る」

「ほんと!? よかった」



 ピピの表情がぱぁって明るくなって、零れるように笑った。



「椛ちゃんは、そうでなくちゃ」



 ? そう?


 ピピの中の私がどんななのかは分からないけど、今日でこの10年間に片をつけなきゃいけないことは分かった。


 それを、ピピが応援してくれているってことも。



「結果云々よりもまず、椛ちゃんの気持ちを知ってもらうのが大事だと思うな」

「気持ち?」

「そう。会ってない期間も含めて10年間も想ってたこと、ナツキくん知らないよね?」

「まぁ、多分…」



 ナツくんを好きってことは、ピピ以外の誰にも言ってないから、本人も知らないと思う。気づかれてたら逆に、恥ずかしい。



「じゃあ、背伸びしないで、純粋に自分の気持ちを伝えてきなよ」


 純粋に……、



 そう、か。


 そうだ。



 余計なことなんて、、考えないでおこう。


 告白って、難しく考えていたけど、違う。


 今想っていること、言ってくればいいんだ。



「分かった。純粋に告白する」







 学年全員で、歩いてライトアップのお寺に向かう。


 いつも通りって心がけて歩いてるつもりだけど、今、私なんか変じゃない? ロボットみたいな歩き方してない? え? してないよね? しててもまぁ、隣のピピがうまく誤魔化してくれるはずだ。


 あああああ不安、どうしよう、緊張する。少女マンガとかじゃ「告白!」とか「告る!」とか「告っちゃいなよ!」いうけど、そんなもんじゃないって身をもって理解させられる。



 想いを告げるって、こんなに緊張して難しくて、勇気がいることなんだ…。今までにしてきた努力も気合もなんだか安っぽくて、今の私には敵わない気がした。



 それに、改めて、昨日ピピに告白した、ふじ君はすごいと思う。告白のコツ、教えてほしい。ナツくんとも仲良いっぽいし。



 これから、どうなるんだろ、どうするんだろう。


 あと数分で、私はこの想いを外に解放しているんだ。


 なんて言おう。私の他にもナツくんに告白したい人がいたら、どうしよう。『好きです』って単語だけじゃ、足りないと思う。でも、『ずっと前から好きでした』…って過去形だし、『あの日からずっと好きです』とか、ナツくんがあのことを覚えている確証もないし。


 どうしよう、なんて言ったら純粋に私の想いが伝えられて、軽すぎなくて重すぎなくて、丁度いいってなんだろう。藤君はどうやってピピに告白したの?



「到着です」



 ……到着?


 到着???



 ああああ待って、全然心の準備できてないし、ねぇちょっと待って、



「椛ちゃん、」



 ひええええ



「私は、近すぎないところにいるからね」

「ううう、うん」



 うん。うんうん。


 ピピの気遣いはすっごくありがたい。



 ……だからやっぱり、ピピに笑ってありがとうを言いたい。



「では、7時に出口集合です」




水面にうつされた紅葉が、ゆらゆら揺れる。


不揃いに、でも綺麗なはっぱを、照らす。





照らされているわたしは——もみじだ。


 


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