第2話




引っ越してきたばかりだった。


知らない場所、知らない人。


クラスのみんなは、幼稚園からのお友達同士でお話していたのに


私は——ひとりぼっちだった。




「おい、おまえ」


「おまえー! だれだっけ」


「しらなーい」


「イブツコンニュー」


「どっかのヨゴレ持ちこむなよー」


「おまえ、オレのしゅくだい、やれよ」


「おー! オレのもオレのも」


「ボクのも!」


「はやくおわらせろよ!」


「じゃ、オレらはそとにあそびにいこーぜ!」


「おー!」



「やめろよ!」



「やめろよ、その子、いじめるなよ——」




   *  *  *




 なんで『ピピ』って呼ばれているのかは、分からない。


 もみじちゃんは時々クレイジーを発揮するから、多分そのおかげだと思う。


 由来はいつか教えてもらうとして、本名でしか呼ばれたことがなかった私にあだ名をくれた椛ちゃんは、友達はもちろん恩人でもある。あだな、嬉しかった。



 それに、9年間、会わない時間がほとんどだったのに、同じ人を想い続けているなんて、英雄だ。



 昨日、私がふじ君とお付き合いできることになったって伝えたら、すごく喜んでくれて。今まで色々頼りにさせてもらったし今度は、私が背中をおしたい。



 今、その椛ちゃんは、必死に参拝している。



 「今日の告白が成功しますように!」って、多分。



 恋みたいに他人が関わっているものは、自力ではどうしようもない部分がたくさんある。だから、他力本願って批判する人もいるけれど、私は神頼みも正当な戦法だと思う。


 私は、いつだって椛ちゃんを応援しているから。



 ……なんて、どの口が言うんだって話だよね。



「ピピ、お幸せにね」

「私のことより自分のことでしょっ!」



 いつも優しい椛ちゃんを、私は呼吸するように裏切っている。



 応援しているからこそ、言えなかった。


 いつか言わなきゃいけないのは、分かってる。それが今日に至る前だったってことも、痛いほど。わかってる。


 今日までに、本当は、言わなきゃいけなかった。


 痒いほど、自分を恨んでるよ。



 好意がからまわって、騙しているのと同じ。裏切者って言われても、否定できない。



 私は、友達で大好きなはずの椛ちゃんを裏切っているんだ。たくさんの恩を、仇で返している。椛ちゃんが気づいてないからって調子に乗って。


 でもきっと、それも、今日で終わるから。



「今日、頑張ってくるね」



 って、笑う椛ちゃんに、私は何を捧げればいいんだろう。




——本当は、知っている。



 椛ちゃんの好きな、ナツキくんの恋の行方。



 そこから成る、椛ちゃんの恋の行方。




 私は、如何様イカサマだ。



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