第161話 言えると思った貴重なチャンス……?
どうしても緊張してしまう。ずっと私は……箕崎真衛に謝罪の気持ちを示せていなかったのだ。
確かにゆずは達へ頭を下げた時箕崎真衛にも謝る機会自体はあった。
だけどあの時の私はまだ箕崎真衛達と関わった経験が浅く、円香との濃厚な絡みに動揺して謝る雰囲気は壊れ、この家から逃げ出してしまっていた。
関係や箕崎真衛を前より知った今ならあれがじゃれ合いだったのだと理解できる。
その後も伝えようとしたことが無かった訳じゃない。でも箕崎真衛は基本いつもゆずは達含め誰かと一緒にいて、そういう雰囲気が中々作れなかったし、やらかしたことが大きいだけに一人でいるときの隙間時間を狙うという訳にもいかなくて。
そういう意味では今日この状況下、2人きりのシチュエーションがこれ以上は中々訪れない絶好のタイミングではあったのだ。
もちろん私が今まで感じた箕崎真衛の人となりに甘えれば、今更というほど時間が過ぎてしまったのかもしれない。しかしそれでも言葉にするとしないとでは、明確な差がそこにはあると考えたから。箕崎真衛なら、受け止めてくれることもちょっぴり期待して――
「えっと……お、遅くなってその、もしかしたらい、今更とか思うかもしれないけど――」
「………?? えっと……」
本質の内容を話さないせいで、箕崎真衛は未だ要領を得られないでいる。
「だ。だから、その――前あんたに酷いことしたことについて、あ、あや、あやや、あやま――」
「っ…………」
今のしどろもどろな発言ではっきり言えない私の意図が果たして伝わったのだろうか。箕崎真衛の表情は多少引き締まった気はするけど言葉は何も発さなかった。
(ゆ、ゆうきを出すのよ私っ。ゆずは達に伝えた時はたしかもうちょっとスムーズだったはずじゃないっ、どうしてこんなにっ……。異性だから? あの時はセリアがいて、一緒に謝ってくれたから? なら今回は成し遂げて見せるわよっ、ひとりでっ!)
「だからっ、そのっ……あの時は迷惑かけて……ごめ――」
「あの~、お取込み中で大変申し訳ないんです~けど~」
「!?!!???」
突如真面目な雰囲気へ割り込んできた引き締まらない声に、私は思いっきり面食らってしまった。
「っ、リリムちゃん。今日は中々姿を見ないからどうしたのかなって思ってたけど……」
箕崎真衛の言葉と共に私はこのピンク猫のことを思い出す。普段はまるでこの家の飼い猫のように溶け込み会話にも中々混ざってこないため箕崎真衛と2人きりだと意識してからは完全に存在を失念していた。
「はい~、リシアさんがマモルさんと2人っきりだとカンチガイしていたようなのでクウキヲヨンデ潜んでいたのですけど、リシアさんが2人っきりでないと話せないらしいことを口走り出したのでここはリリムの存在を認知してもらった方が後々
台詞だけなら現れた理由を丁寧に説明しているのだが、どうみても私達を面白がって観察していたようにしか見えない表情。セリフの所々を強調して話さないでよっ、どことなくわざわざ難しい言い回しを使ってる気もするし、いったいどこで覚えてきたのかしら。
「なっ、ちょっ、じゃっ、じゃあ2人っきりだと思ってたのはっ――。しっ、知ってたなら止めなさいよ箕崎真衛っ!!」
「マモルさんはリリムのことを伝えようとしてたと思いますよ? リシアさんが遮らせなかったんじゃないですか~」
その言葉で私に少し前の情景が思い起こされる。えっ、あの時箕崎真衛が遮ろうとした理由ってそういう……? 確認するように視線を向けると、箕崎真衛はおそらく肯定の意味で頬をかきながら苦笑いするだけ。
はっ、はあ~~~~~っ??? だってそんなことを伝えようとしてるなんて思わな――もっ、もおおお~~っっ!!!!!
結局リリムが現れたせいで求めた雰囲気は吹き飛んでしまったことを悟るしかない私なのであった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます