第160話 2人っきりだと思っているからこそ――

  私の目の前に現れたのはおそらくごく一般的と言われるような家庭料理の品々。主食の焼きそばやサラダといったものもあれば、料理の知識が無い故に名称の見当がつかない小物まで置いてある。

 「良かったら、味見してもらえないかなと思って……」

 それは別に構わなかったのだが、私の頭はそれよりもさっきの考えが杞憂だったことについて思考が引っ張られている――。

 (ま、まあまあまーそうよね。そ、そりゃあほとんどわかってたわよ? 私が影響された漫画のような展開の可能性が限りなく低いことくらい。よくよく考えれば箕崎真衛と2人っきりの時間なんてもっと仲良しなゆずは達の方が尾行した状況も加味すれば何倍も多い訳だし? 当然と言えば当然で、結果だけを見れば私の考えすぎってことになる訳だけど、別にいいじゃない? あるでしょほら、あくまで自分が絶対安全なのは大前提としてるし本当には起きてほしくないんだけど、ちょっと可能性の低そうなスリルの妄想することなんて。つまりはそういうことよ)

 一通り自分への言い訳をし終えてから、ようやく本格的に箕崎真衛の話が耳に入り始めていたのだった。

 「僕、この家に来た当初は料理なんてほとんど触れたことが無かったから散々な結果を招いたこともあったんだけど、やっぱりそれなりには出来ておいた方が良いかなと思って主にゆずはさんや円香さんから少し教えてもらってて……」

 聞いた後の第一印象は(なんとなくなんでもそつなくこなすイメージだったんだけど、苦手なことなんてあったのね……)だったのだけど、素直に言葉へは変換せず殻をかぶせた発言で対応してしまう。

「ふ~ん……所謂毒見役ってことかしら? 私なら下手なもの食べさせたって自分へのダメージ少ないってこと?」

「い、いや、ゆずはさん達にはもう食べてもらって好意的な意見を受け取ってるんだけど、やっぱり気を遣わせちゃってるかもしれないし、円香さんは色々な意味で何を意図に含めてくるか、どんな意図で発言するかわからないから……」

 なるほどね、箕崎真衛の目的を大体把握しながら出されたものを口に運ぶ私。これまでの話を統合すれば、私はただ正直な感想を述べるだけで良いのだろう。

「……麺がベタッとしてるし具材は焦げかけの物もあれば火が通り切ってなさそうなのもあるけど、まあ食べられなくはないくらいね……」

 私はそう言いながら再び焼きそばを食べ始め咀嚼する。

「あはは、やっぱりもう少し頑張らないとかな……」

「っ……」

 その印象が悪くない眉尻の下がった笑顔を見た時、ふっと思い出した私の決意が固められるような気がして。

「…………」

「…………」

 思えば2人っきり、流れる今まで築いてきた少しこそばゆい、静かな雰囲気だって悪くない。伝えるには絶好の機会ではないだろうか、実は密かに私の胸へ秘めていた、この気持ちを――

「ねぇ……あんたの頼みは叶えてあげたんだし、私が話をふってもいいかしら……」

「?……」

「今は2人っきりだと思うから、話しておきたいの――」

「えっ……」

 これから話すことは、もちろん2人っきりでないと、そして話す土壌というか、雰囲気も相応でないと中々恥ずかしくて伝えられないことだけれど――。緊張からか私はきゅっと胸の前で手を握りしめ、目線も箕崎真衛を少々見上げる形となっている。小さめに開いた口で別の話題を切り出す私の表情に箕崎真衛も少々身構えた。

「えっと、その……なんていうのかしら……」

「リシアちゃん……いやっ、で、でもっ――」

「っ、さえぎるつもり……? せっかく決心したのに――」

「っっ……」

 止めようと何か言いかけた箕崎真衛も、既にただ私が再び話し始めるのを待つだけとなっている。

 私は箕崎真衛を見つけ続けながら、どのような言葉から言いたいことへと繋げようか、決めかねているのだった――。

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