第159話 緩んだ空気とメイド服
「ま、まあ手伝う時にわざわざ服を汚したくもないから、せっかくあるんだしこれ着るけど、だからってあんたがご主人様とかって訳じゃないんだからねっ.」
箕崎真衛と一緒に居間へと戻った私は決して和葉の思い通りのようなシチュエーションにならないよう箕崎真衛へ念を押してからメイド服に袖を通そうとする。
「さっき円香が意味深に言い残していったけど、着替えてるとこ覗いたりしないでしょうね……?」
「そ、そんなこと……」
「どーだか。ゆずは達の恥ずかしい場面で何回もえっちって言われてるんじゃないの?」
「えっと、偶然出くわしたり円香さんから陥れられたりしたことしかほんとに……」
「ふ~ん……」
そう言いながら扉を閉めて居間とは違う座敷へ。まあ円香の箕崎真衛いじり以外でゆずは達から怪しい話は聞こえてきていないから、本気で疑ってたりはしてない訳だけれど。
「あれ……ここ、どうやって……箕崎真衛? ちょっとてつだ――」
「えっ……? でも……」
「っ! くっ、くるんじゃないわよヘンタイっ!」
「ええぇ……?」
油断したわ、危うく箕崎真衛に覗かれそうになったけど、何とか着替え終わった私は箕崎真衛が待つ居間へと戻る。
「へ、変なところとかないかしら……?」
「う、うん……特に見当たらないけど……」
一応普段とは違う特別な格好をしているのに、箕崎真衛は私の問いに答えただけ。新鮮さを感じているのはその表情くらいだ。別に言われたから何がどうってことじゃないけど、わざわざそんな表情をしてくれるのなら、似合うとか何かちょっとした言葉くらいつけ足してくれないのかしら……
「ま、あんたは私なんかより、ゆずは達に着てもらって色々濃厚なお世話してもらったほうが良いんでしょうけど? 悪かったわね可愛くないお手伝いでっ」
「そ、そんな……」
腹いせの意味も少し込めたが、やはり緊張が解けたのが大きいのかさっきから2人っきりでもゆずは達皆がいるときのような軽口がすらすら出てくる。円香が箕崎真衛をからかいたくなる気持ちもわからないでもない。
「ふふっ……それで、何かやることはあるのかしら……?」
「えっ? えっと……とりあえず、今は寛いでいてくれれば……」
「っ……じゃあ、用があったら呼びなさい?」
ということで私は居間へと腰を下ろす。箕崎真衛がテレビの点けてくれ、居間から消えて少し時が過ぎ、
「リシアちゃん、飲み物何か飲む?」
「あら、それじゃあ頂くわ」
テーブルにはジュースが用意され、しばらくして――
「リシアちゃん、お菓子あるんだけど、良かったら……」
「あ、ありがとう……」
お菓子をつまみながらテレビをなんとなく眺める私。箕崎真衛も向かい側に座り――
「…………」
「あっ、スマホ、そこで充電できるから――」
「ちっっがうでしょっっっ!!!?」
「!??!?」
テレビに飽きて携帯電話を弄ったり和葉に持たされた漫画を読んでいるほど時間が流れた後、ついに耐えきれなくなった私がテーブルを思いっきり両手で叩く。
「何でメイド服着ながらやることがだらだら過ごすだけなのよっ! これじゃあただのコスプレ衣装じゃないっ!!」
「えっと、でも家事はほとんどゆずはさん達が済ませていっちゃったし、お客さんのリシアちゃんに何か頼むのも……っ、そっか、あれなら――」
箕崎真衛が何か思いついたらしく、立ち上がって居間から出ていこうとする。
「な、なによ……?」
「ちょうど今、リシアちゃんにしてほしいことが見つかったから――」
(ちょうどって、な、なにをやらされるの……? まっ、まさかとは思うけど、今までの箕崎真衛からは考えにくいコトではあるのだけれど、私が読んでいた漫画でほのめかされていたコトじゃないでしょうね……! だってこの状況、私と箕崎真衛が2人っきりで、私がメイド服の状況でってコトなら可能性としては0じゃ――も、もし少しでもそんな状況がありえるのだとすれば私はどうしたら――!)
直前ということで読んでいた漫画の影響を受けまくっていた私の気持ちを知る由もない箕崎真衛は、そのまま居間の扉をゆっくりと閉めていったのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます