第158話 あいつなりの気まずさ緩和策
いかにも誤解されるような瞬間を目撃され、長いような短いような沈黙に耐えられなくなった私は慌てて事の経緯を説明しようとする。
「ちっ、ちがうわよっ!? これは別に私の私物なんかじゃなくてっ、全部和葉にっ、あの特殊性癖メイド長に持たされたものだしっ! わざわざここで開けるようにってご丁寧に封までされてたのっ! 決してこの漫画の内容とかに憧れてメイド服持ち込むほど気合い入れてきた訳じゃないんだからっ! 勘違いしないでよねっっ!!」
誤解されるかどうかの瀬戸際なので焦りながらも一切嘘偽りなく事実をしっかりと弁明したはずだけど、早口でまくし立てたせいかどうにも本心を隠した言い訳っぽく聞こえてしまうことに言ってから気付いた。何より箕崎真衛はどう反応するのだろうか。箕崎真衛の性格からして露骨な感情を表に出さないことは今までの付き合いからある程度予想できる。おおかた目をそらし、頬でも指でかきながら「えっと……」などと呟いて適切な対応を考え選択しようとするような気がした。
「えっと……」
結果箕崎真衛が行ったのはあまりにも予想通り過ぎる仕草と反応だけど、一応気を遣われていることは自覚しつつ気遣われた言葉を待つ。
「少し僕に、ついてきて貰えるかな……?」
「っ……は……?」
しかし次に続いた言葉が私の想定していた候補から結構外れていたので、私はちょっぴり面食らってしまったのだった――。
〇 〇 〇
連れてこられたのは2階にある箕崎真衛の部屋の前、たどり着いたらすぐに私を残して箕崎真衛は自分の部屋へと入り、置いてある本棚を漁り始める。
「……やっぱり、またこんなに……」
扉が開きっぱなしなので廊下にいる私からもその光景が確認できるけど、いったい何をしているのか……。
漁っている本棚から本が何冊か取り出され、積み上げられていく。その表紙はどれもこれもがえっちな方向に過激そうなものばかりで――
「ち、ちょっと、何よ急にこんなもの見せつけて……せ、せくはら……??」
「っ、ごっ、ごめん、そういうつもりじゃなくて……信じてもらえないかもしれないけど実はこれ、全部僕が見覚えの無い本ばかりなんだ……」
「っ、はぁ……? だってこれ、今あんたの部屋の本棚から出てきたじゃない。」
「円香さんに時々紛れ込ませられてて……本人は名目上おすすめの本を布教してるだけとか言ってるけど、初めてこれがこのみちゃんに見つかった時はもう……。幸いすぐに円香さんから自供してくれたし、最近は理由が分かって慣れたのかこのみちゃんも反応が薄くなって、円香さんも紛れ込ませる頻度が減ってきてはいるんだけどね……。まだこのみちゃん達と出会って間もない頃も、円香さんの私物を勘違いされたこともあったし――」
そう言いながら箕崎真衛は積み上がった本を綺麗に整え端に寄せておくみたい。
「これは円香さんに送り返しておかないと――。えっと、だからさっきリシアちゃんが言ってたことも、あんまり嘘とは思えなくて……。でもあの状況で伝えても、リシアちゃんに信じて貰えないと気まずくなっちゃうかなって――」
ようやく箕崎真衛の意図が理解できた。まあここまで打ち明けられてしまっては箕崎真衛の言葉を気遣いの嘘と疑う必要もないとは考える。
「ふ、ふ~ん……ま、あんたも一応苦労してるのね……」
とはいえここで即座に「気遣ってくれてありがとう」とはあまりにも恥ずかしくて言えなかったので、この程度の台詞に留めてはおいた。
「あはは……少しでも理解してくれたなら嬉しいけど……。とりあえず、戻ろっか、リシアちゃん……」
「ええ、そうね……」
箕崎真衛なりに同じような境遇という共通点を作ってくれたからか、2人っきりだとコミュ障を発揮しそうな私でも居心地の悪くない雰囲気が出来ているのかもしれない。箕崎真衛への警戒心もまた一つ、気まずさ故張っていた緊張と一緒にもう少し緩めても良いのかなと思った――。
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