第157話 開封した紙袋には特殊な中身……?
台所に向かっていく箕崎真衛を見送った私はこの状況下で何か気を紛らわせるものは無いかと手持ち無沙汰が気になりだし、辺りをきょろきょろと見回してみる。すぐに気付いたと言うより思い出したのは隣に置いてある和葉から貰った意味深な紙袋。
(そういえば和葉から渡されたのよね。ここに着いたら開けても良いって言われたけど、簡単な封までされて中身が見えないようになっているだなんて、いったい何が入っているのかしら……)
この家へのおみやげ……にしては渡してほしいとも言われていないし、私にだって普通にそう伝えるはず……。何よりごく一般的なメイド、人物ならまだしも渡してきたのはあの和葉である。例えるなら円香のような独特の底知れなさ、薄気味悪さが醸し出されているような気もするが、紙袋というところからまあ危険物や物理的な激物の類ではないのだろう。ここでの開封を推奨されてもいるし、少なくとも開けること自体は問題ないはず。
怪しみながらも中身への興味が消えることは無い故私は紙袋と一緒に奥まった隅っこへ移動すると、恐る恐る中を確認してみた――。
「何よ、これ……」
視界に映るのは何やら布状のひらひらがついた白い……
「服……?」
折りたたまれたそれを取り出し広げてみれば、普段ルリトの家では着用者だらけなので見慣れていると言えば見慣れている、何の変哲もないメイド服だった。
(……どういうことかしら?)
和葉の意図を読み取れないが紙袋の重さ的にこれだけが入っていたわけではないはずと私はもう一度中を覗き込む。メイド服の下に積み上げられていたのは何冊かの漫画本であり、必然的に目に入ってくるタイトルと表紙。
「渚のごとく……?」
ぱらぱらとページをめくってみれば表紙からもある程度予想がついたけど、どうやらメイドと主人のラブコメディらしい。
そしてその下に重なっている本は作品が違えどどことなく似た要素を網羅した表紙――。
「………………」
メイド服が入っていたことと合わせて嫌な予想を頭によぎらせながらも一応次の漫画を手に取りぱらぱらとページをめくる。やはり、おそらく、同一ジャンル。
その後も次々と現れる同一ジャンルの漫画を手に取りページをめくっていくが、疑惑が深まり確信に変わっていくほどその速度は速くなっていく。
ついに最後、残り1冊の漫画を手に取った私の確信を裏付けるメモが、紙袋の一番下に入っていた。
【このメイド服で箕崎様のメイドとしてごほうし――ゴホン、もとい色々手伝ってみてはいかがでしょうか? ラブコメシチュエーション――ではなく、学ぶことや主人の秘密を握れることが多いのも、メイドという仕事の特権ですよ……?】
「ふっざけんじゃないわっっ!! 何考えてるのよあの特殊服装趣味メイド長っっ!!!」
ぷるぷると震えつつメモ用紙を読み切った後思わず叫びながらそれを投げ捨ててしまう私。こんなもののためにわざわざ封までして、見せられた後はいそうですかと希望通り行動するとでも思っているのだろうか。いやきっと私が憤慨するところまで予測してにやにやしているに違いない。素直に従った私が馬鹿だった。
「――リシアちゃん……?」
振り向くとそこには居間へと戻ってきた箕崎真衛。そりゃあこれだけ大きな叫び声がすれば確認に来てもおかしくないと思考が追い付く。
「…………」
しばらく無言の箕崎真衛から私も今の状況に注意が向いた。私の周りに散らばってるのはメイド服&主人とメイドもののラブコメディ漫画が数冊。これではもしかして、私が漫画のシチュエーションを期待しメイド服まで準備してきたように誤解されるんじゃ……?
沈黙の中、私の冷や汗だけが肌を伝ってそっと流れていくのであった――。
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