第155話 落ち込む私とちょっぴり怪しげな紙袋

 ルリトのお買い物は箕崎真衛からのプレゼントじゃなかったわけだけれど、それでも私の疑惑やもやもやは完全に晴れた訳じゃないのよね。そもそもこんな近くに私というものがありながら自分の物を買うだけなのにわざわざ箕崎真衛にお願いしなくても良いじゃない……。

「ルリト~お買い物なら今度は私と行きましょう? 私ならいつでも何回でもず~っと付き合ってあげられるから……♪」

「そ、そうですね……また機会があれば、お願いしたいんですけど……」

 いつも入り浸るルリトのお部屋で寄り添うスキンシップを欠かさずアピールをする私だけど、ルリトは苦笑いの返答で、それどころか――、

「えっと、リシアちゃん……、もうしわけありませんがしばらく遊べなくなりそうでして……」

「っ、そんな、ど、どうして……? どうしてなの……?」

 私はルリトの肩を大きくゆすりながら理由を尋ねるしかない……。ルリトはぐわんぐわんと前後にゆすられて目を回しながらも続けて口を開く。

「それは、その……少しよ、用事があるんれす~……」

「用事って、私に話せない内容ってこと……?」

「……ごめんなさい、少しの間だけなので……」

「そ、そう……なら、仕方ないわよね……」

 苦笑いのまま遠慮がちに手を合わせるルリトのお願いに、私は不本意ながらも頷くしかなかった……。


            〇 〇 〇


「はあぁ~…………」

 ルリトにあんなお願いをされてしまえば当然お屋敷内廊下を歩く足取りも重くなってしまう。しばらく遊べないということはもしかしたら所謂距離を置くという意味なのは私も薄々察しが付く訳で、実は用事というのは建前でこのまま――。

 最悪な想像を思い浮かべ否定しきれない私の様子はトボトボという擬音が良く似合っているのだろう。

「……っ? もし自分がお嬢様だとしたら、リシア様のことをどう思うか……ですか?」

 途中で何やら話し合いをしていた和葉とセリアに、苦笑いしながら努めて平静を装い尋ねてみた。

「え、ええ……なんとなく、気になっちゃって……。正直に答えてちょうだい……?」

「う~ん、そうですねぇ……」

 和葉はちょっぴり顔に指をあてて考え込んだ後――、

ですかねっ!」

(う、うざっっっ!?!???)

です……」

 メイド2人のあまりにも明け透けのない回答に私はまるで【うざい】、【うっとおしい】という石の重りが頭上に降り注ぎのしかかってきたかのような衝撃をメンタルに突き刺される。

「私としては今のようにベタベタ――もといスキンシップは控えめでお願いしたくなっちゃいますね~」

「申し訳ありませんがお嬢様、私達も現在は少々忙しい身の上ですので、これで失礼させて頂きます」

「そ、そう……なるほどね、アハハ……忙しいのなら呼び止めて悪かったわね……」

 あくまで平静を装いセリア達と別れる私。落ち込む感情を表に出すのは2人が見えなくなった後でと考えていた矢先、見送る和葉の足が止まった。

「っ、そうでしたっ、今日はどうやら箕崎様達も人手を必要としているみたいでして……良ければお手伝いにいってあげてくれませんか……?」

「っ、箕崎真衛達が……?」

「はい。それともこの後、お嬢様と何かご予定でもございますか……?」

「っ――いや、無い……けど……」

「ふふっ、それは良いタイミングを引き当てました。それではお願いしますね。持って行ってほしいものもありますので少々お待ちください」

 そういって和葉は近くの部屋から少々片手で持つには大き目の紙袋を持ってくると、私に渡す。その開口部は何故かテープで閉じられていた。

「何よ……これ……」

「今開けちゃだめですよ? 水島家に入ってからひっそり開けてくださいな♪」

 そこはかとなく怪しさが漂う和葉の笑み。言い方からして箕崎真衛達への単純な贈り物という訳ではなさそうだけど……。

 決して透き通った気持ちで水島家には向かえないが、用事があれば落ち込む気持ちも少しは紛れるかもしれないと思いながら、私はその荷物を預かり歩き出した――。

「――いったい何を渡したのですか?」

「ちゃんと年齢制限を守って過激さも控えたものを選びましたよ?」

「はぁ……あなたという人は……」

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