第154話 確認せずにはいられない恋心

 楽しそうに談笑しているルリトと箕崎真衛を歯ぎしりしそうな思いで観察している私。さりげなく車道側に移動して少し車がはねた水の被害を受ける箕崎真衛の優しさだって、今の私には苛立ちを加速させる要因にしかならない。ルリトの服装だっていつもと変わらないと言えば変わらないのかもしれないけど、その中でも一番似合う服を着てきたかのような印象すら受けるわ。

 あの後ルリトから行き先を訊き出してるからこうして無事に追いかけられてる訳だけれど、1人で尾行している途中で私の肩に軽く体重を預けてきた真実とそれに気づいた時いつの間にか後ろにいたゆずはとこのみ。3人の恰好を見た瞬間、目的の人物が違えど同じ同士であることに薄々感づいたの。探偵服の私、ボーイッシュな帽子と服装の真実、サングラスをつけているこのみ、髪を束ねているゆずは。私達4人はほとんど会話も交わさず合流し、尾行を続けることが出来たわ。

「う~ん……何話してるんだろ……」

「今のところはまあ……特別な会話ってことはなさそうだけど……」

 声を落として真実とこのみがそう話している中私も私でストレスがかかっている。やはりリリムがいなければ感じ取れるのは和やかな雰囲気だけで会話の内容までは把握できない。聞こえる距離まで近づこうにもそんな距離では遮蔽物が無い。まあある程度予測できるシチュエーションはあったわよ。ルリトが何かに躓いたのかよろけてそれを箕崎真衛が抱きかかえるように支えてルリトがお礼を言って箕崎真衛が遠慮してお互いの仲が深まるっていう箕崎真衛を握りつぶしたくなるように手をワキワキさせざるを得ないシーンがねっ!

「雰囲気だけで判断は出来ないわっ、ナチュラルに次の二人っきりで会う予定を話しているのかもしれないし」

 顔を見合わせるこのみと真実を斜め下から見上げる私。当然声の大きさも彼女達に合わせている。だけどそのせいで一瞬目を離したせいだろう。ゆずはの驚く声に動揺してしまった。

「あっ……」

「っ! どうしたの!? まさかこの一瞬で見失っ……てはなさそうだけど」

「い、いえ……どうやら気のせいだったみたいで……」

「そ、そう……」

 そのまま尾行を続け、ルリトと箕崎真衛は主に小物を扱うような雰囲気の良い雑貨店に入っていく。流石に私達も入っていったら見つかっちゃうから同じ出入口から出てくるのを見越して待っていると、やがてルリトが大きめの綺麗にラッピングされた箱を抱えて箕崎真衛と一緒に出てきたのだ。おそらく箕崎真衛に購入してもらったであろうプレゼントがそんなに嬉しいのか、満面の微笑みで箕崎真衛と微笑み合っている。

(ルリト……そんなに箕崎真衛のこと――?)

 ちょっぴり胸が締め付けられるような切なさを覚えた時、箕崎真衛がこちらの方を振り向きざまに口を開いて――、

「えっと……みんな、他に用事が無いなら――一緒に帰らない……?」

「っ!!?」

 嘘っ、バレた!?? 今回は前より結構慎重に行動したのにっ! 待って、落ち着きなさいっ、前回までの経験から私達にカマをかけたって可能性もっ――

 だけどそんな考えを巡らせる私より先に観念したのかゆずはが箕崎真衛の前へと姿を現す。こうなってしまっては私達も隠れ続ける意味が薄いので、このみや真実と一緒にゆずはの後へ続いた。

「どうしてわかったのよ……前回よりは真面目に身を隠していたつもりだったけど……」

「う~ん……まあ、前回までの経験と――」

 言いかけた箕崎真衛はそっとゆずはに視線を移す。

「置いてあった看板の鏡面部分で真衛さんと目が合ってしまっていたようです……そのまま変化なく歩いていたので気付かなかった可能性を考えていたのですけど……」

 続きの説明を話したのはゆずはだった。なるほど、さっきの驚いたゆずははそういうことだったのね。見つかった理由には確かに納得がいったけど、箕崎真衛からルリトへのプレゼントに関してはやはり素直に納得出来ない。

「ふ、ふ~ん……。それで、その箱は箕崎真衛からルリトへのプレゼントってこと……? よ、よかったじゃない……」

「っ……ち、違いますよリシアちゃん、これはわたしが自分で購入したものです……」

「っ、そ、そうなの……?」

 苦笑いで答えているルリトと箕崎真衛に私は目をぱちくりさせる。私達の尾行をルリトが驚かず普通に話しているのは箕崎真衛に事情を聞いていたからなのかなと私なりに解釈したりとかしながら――。

「はい……真衛さんには選ぶのをお付き合いしてもらったんですよ……」

「な、なんだ、そういうことだったのね……。いったい何を買ったのかしら?」

「っ! だっ、だめですよっ、秘密です……」

 ルリトが慌てて抱えていた箱を私から遠ざける。そんなに見られたくない子供っぽいものとかの恥ずかしいものでも買ったのかしら……。まあ箕崎真衛からのプレゼントじゃなかったわけだし幾分か安堵出来たわ。ゆずは達もあまり大げさには表さないけど胸をなでおろしているし、とりあえずは肩の荷を下ろして帰れるわね……。


            〇 〇 〇


 「おかえりなさ~い。一緒に帰ってきたってことは、やっぱり見つかっちゃったってことかしら~……?」

 水島家に帰ってきたマモルさん達を面白さを期待するにやにやした表情でマドカさんは迎えました。マモルさん達はそれぞれ何とも言えない微妙な表情を返答として返しています。

「ふふっ。ちなみに調査するなら私を頼ってくれても良かったのよ~? ゆずはちゃん達よりは~完璧で徹底的に調べ上げられると思うから~」

 確かにマドカさんなら見つからず怖ろしいほど詳細に調べそうですけど、マドカさんのことですからスナオに調べるだけということは無さそうなのですが……。あとマモルさん本人を前にして言わないほうが良いとは思います……。

「もっとも~、その場合ゆずはちゃん達のちょっとしたプライベートも写真とか動画とかで入手して、箕崎君にちょっぴり提供してあげようかなって考えてるけど~。あっ、大丈夫よ? 箕崎君以外には流布しないこと誓うからっ」

 やっぱり何かあると思ってました。ちょっとしたプライベートがマドカさん基準とか諸々含めて全然大丈夫じゃないです……。

「あはは……それはちょっと遠慮しておきたいかも……」

 ちょっぴりゾッとして血の気が引いたようなユズハさん達の中、マミさんの苦笑いと共に申し出はやんわり断られます。

「あらお気に召さなかった? ざ~んねんっ。まあでも私はともかく箕崎君自身なら権利があるんじゃない? プライバシーな時間に後をつけられたんだから、侵害されっぱなしじゃ筋が通らないわよね~?」

 マドカさんの言葉で今度はユズハさん達が一斉にマモルさんの方を向きました。何を想像したのでしょうか皆さん頬を染めた恥ずかしさに加えてユズハさんとマミさんは不安、コノミさんは怒りの表情を交えて視線を送り続けます。何かしら言葉も言いたげですが円香さんの発言した行為をやってしまった手前どうやらぐうの音も出そうになかったらしく――。マモルさんは必死に両手を振ってそんな意思が無いことを伝えていたのでした……。

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