余裕の無くなり始め
第152話 私の予期せぬ延長戦
「う~~~~~~~~~~~~ん…………」
今日も相変わらずルリトの部屋に入り浸る私。頭をひねって唸る私が気になるのか、ルリトは理由を尋ねてくるの。
「えっと、また真衛さんの素行を調べる方法でも考えてるんですか……?」
私が今まで散々箕崎真衛を疑ってきたからか、ある程度予測を立てられるルリトの疑問符。まあ、箕崎真衛関連であることは否定しないけど……。
「さすがにそろそろあいつのこと、少しは認めざるを得ないかなって……あんまりにも期待してる結果が返ってこなさすぎるわ……」
「結局ゆずはさん達に尾行が知られたことまで含めて報告したら、ゆずはさんとこのみさんにもやはり知られていて泳がされていただけだったんですよね……?」
「尾行も駄目となると、もう方法だってなかなか思いつかないしね~……」
ミニテーブルの側で腰を下ろしている私は、言葉と共にいつもより重く感じる顔を下から両手で受け止めた。
「リシアちゃん……その、ずっと気になっていたんですけれど、どうして真衛さんにばかり執着するんですか? 確かに異性であることはわたし達にとって未知の部分ではありますけれど……真衛さんに、助けられたんですよね……?」
「まあ、そうよ……? 別に恨みがあるって訳じゃないけど……」
そこで私は言葉を濁し、あからさまにルリトへと視線を向ける。ルリトは気付いていないわよね、私が箕崎真衛へ執着する理由に、まさか自分が関わっているなんて――。
「……?」
案の定私の視線の意味に気付かず可愛く首をかしげてみせる。それどころか、私が言葉を濁した意味を別の方向にとらえだした。
「……え~っと、もしかして、好きなんですか? 真衛さんのこと……」
「ちょっ!? どうしてそんな風に見えるのよっ! ないないっ! 絶対にありえないわっ!!」
ルリトは「必死に否定するほど怪しく見えちゃいます……」みたいな苦笑いを浮かべてきてるけどっ、ほんとなのにっ! 私はルリトが箕崎真衛の毒牙にかからないか――まあもう毒牙とまでは言えなくなってきたかもだけど、それでもあなたが箕崎真衛を……追いかけていかないか心配で――。
で、でも、大丈夫よね? 箕崎真衛の近くにはゆずは達もいるし、一応仲良くはしてるみたいだけど別に明確に好意があるとか耳にしたこともないし、そ、そうよっ、箕崎真衛のデートを観察する時だって嫉妬するようなそぶりは見せてなかったじゃないっ。や、やっぱり私の早とちりじゃないかしら……考えすぎ――
「あっ、そういえばもしかするとリシアちゃんには申し訳なくなるお話かもしれないんですけど……今度わたし真衛さんとその‥‥お出かけする予定が出来てしまいまして――」
「…………は?」
「え、えっと、別にその、そういう特別なことではないんですよ? 本当に勘違いされるようなことでは――」
「…………ま、まさか、ふたりっきりなんてこと、ないわよね……?」
「えっ……? あっ、ま、まあ……真衛さんとしか約束していないので、必然的にそうなっちゃいますけど……で、でも、今回は【わたしの方からお誘いしている】ので、真衛さんが無理を受け入れてくれた形だと思いますし……」
「へ、へぇ……そう……ルリトの方からね……ルリトのほうから…………」
「リシアちゃんが真衛さんのことをどう思っているのかはっきりとはわかりませんけど……本当に単純に、ただ出かけるだけですので、どうか許してほしいです……」
ルリトが申し訳なさそうにはにかむのと同時に部屋の扉が開くけれど、箕崎真衛とふたりっきりでお出かけ、しかもルリトの方からお誘いという事実がまだ私の心を深く突き刺したまま。
「そうは念押ししても、まんざらでもないんじゃないですか~お嬢様?」
「かっ、和葉さんっ。ぬ、盗み聞きしちゃだめですよ……」
「お嬢様とリシア様にお茶をお出ししようと扉を開けようとした時に偶然耳に入ってしまいましたので。いいじゃないですか、ぜひ楽しんできて下さいな。箕崎様もお嬢様も優しく控えめで思慮深い、皆さんにとても慕われるまさにお似合いのお二方なのですから。お二人のデートが上手くいくよう期待してお帰りをお待ちしておりますわ」
「で、ですから、本当にその、デートとかそういうのでは……。和葉さんいじわるです……」
否定するルリトの顔を見ても、やはり嫌そうな表情はしていない。こちらから誘ったのだから当たり前といえばあたりまえだけど、やっぱりそのデート、内容を把握しなければとても夜さえ眠れない。
(前回までのように余裕かましてなんていられないわっ。意図してないけど練習にもなったわけだし、反省を生かして尾行計画延長戦よっ!)
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