第151話 彼女に依頼したのは……?

 「うん、うん……ルリトちゃん達、何とかなる……? ……うん、そっか。ありがとうゆずはお姉ちゃん。うん、りょうかい、今帰ってるとこだから――」

 僕達みんなが印象に残った体験を経て遊園地からの帰り道、歩幅をそろえて歩く中真実がゆずはさんに携帯電話で確認を取ってくれている。表情と声のトーンから予測すると、無事リシアちゃん達も一緒に夜ご飯を食べられそうである。

「なんとか大丈夫そうみたい。献立を楽しみにしながら帰ってきて下さいだって」

 思った通り今日はいつもより賑やかな夕食となるのだろう。

「へえ~何が出てくるのかしら。まあたとえ何であろうとゆずはの作る料理の味は保証されてるし、いっぱい食べるわよ~っ」

「リシアちゃん、いやしいですよ……?」

「大丈夫、今日はお詫びの夕食なんだから。そうでしょリリム? えいえいっ」

「あ、あんまり強く撫でないでくださいっ。あとお芝居されたのは一応リリム達が発端だと思います~っ」

 前を歩くリシアちゃんの腕に抱かれながらじゃれ合っているリリムちゃん達を微笑ましく視界に入れつつ、僕は真実と並んで歩いていた。

「ねぇ、お兄ちゃん……?」

 ふいに真実が僕だけに聞こえるくらいの声で話しかけてくる。

「演技の時、結構ギリギリまで近づいたし、その……もし、どっちかがもっと近づこうと思ったらさ……」

「っ……」

「お兄ちゃんが受け入れてくれるなら……せっかくだからお兄ちゃんの、奪っちゃっても良かったかな……なんてねっ」

 冗談だと思うけれど、夕焼けの中照れの混じった真実の笑顔に、僕も顔を赤くせざるを得ないのだった――。


            〇 〇 〇


 談笑を交えつつようやく水島家の前までたどりついたわたし達は、それぞれに相応しい挨拶を述べながら中へと入っていきます。そして当然というべきでしょうか、家の中からは「おかえりなさい」などの挨拶に答える返答が返ってきました。

「それじゃあぼく達は終わってないかもしれない夕食準備のお手伝いしてくるから、ルリトちゃん達は居間ででもくつろいでてよ」

 真実さんにそう促され居間の方に向かう途中、リシアちゃんが歩きながら呟きます。

「結局最後まで私の望んだような結果は得られなかったけど、まあ依頼の内容はこなした訳だし、一応後で報告はしておかないといけないわね」

 っ、そうでした。あまりにもリシアちゃん自身の目的が前に出た尾行だったのですっかり忘れかけていましたけれど、今回の尾行を依頼した人物がいると、たしか最初にリシアちゃんから聞いていたような気がします。

「えっと……同じ光景を見てきたんですから、報告も何もないと思いますけど……」

「依頼……ですか?」

「えっ……?」

 わたしはてっきり依頼主がいるとしたら一緒に行動してきたリリムさんだと考えていたので、当の本人が発した疑問符に戸惑いました。

「尾行の依頼主って、リリムさんではないんですか?」

「何言ってるのルリト? 依頼主はリリムじゃないし、同じ光景なんて見てきてないわよ。だから内容の報告が必要なんじゃない」

「リリムはどちらかというと誘われた側ですね。リシアさんが独り言をつぶやきながらマモルさん達を見ていたことがあったので……」

 それじゃあ誰が――と考えを巡らせている所に、偶然会話が聞こえる場所にいたらしい真衛さんが会話に参加してきます。

「えっと……リシアちゃん達がついてきてたのは、誰かに頼まれたからだったっの……?」

「っ、まあそういうことね。つまり仕方なくあんた達を尾行してたってわけ。もちろん依頼主は明かせないわよ? かた~く口止めされてるんだから。大丈夫、別にあんたが全く知らない人って訳じゃないからっ」

 思いっきり私情が入っていたと思いますけど――という言葉はおそらくリリムさんと一緒に飲み込みました。真衛さんはほんの少し考えを巡らせた後、頬をかきつつもう一度口を開きます。

「う~ん……それだと、一応心当たりがあるんだけど――」

 二階へと向かうための階段に真衛さんが目を向けると同時に、階段からは一人の女性が少々際どい恰好をしたまま降りてきました――。

「う~ん……そろそろ晩ご飯出来たかしら~?」

 眠そうに眼をこする女性、円香さんに真衛さんは追及を始めたようです。円香さんが真衛さんを何度もからかう光景は目撃しているので、確かにそう言われれば納得のいく相手だったのですが――――、

「今回は私じゃないわよ? 私が箕崎君達にバレるようなガバガバ尾行する素人の女の子達に依頼するわけないでしょ?」

「さ、さらっと辛辣にディスってくるわね……」

 どうやら違ったみたいです。真衛さんは完全に当てが外れてしまったのか大量の疑問符を浮かべて考え込んでしまいます。そうなると、いったい誰なんでしょうか――。そう思いながらふと周りに目を向けると、今までおそらくわたし達に目を向けていたであろう真実さんが、わたしと目が合った瞬間にその視線をそらしました。

「…………?」

 真実さんだけではありません。このみさんも、ゆずはさんまでも真実さんと全く同じ反応をわたしに返したのです。その時に初めて、わたしの頭の中で全てのつじつまが合ったような気がします。真実さんが真衛さんと違ってたった一度のお出かけで私達を見抜けた理由も、このみさんが真衛さんをあまり追及しなかった意味も。お願いした内容が自分自身に降りかかれば、当然その把握も早いという訳ですね。依頼主は一人だという勝手な固定概念もわたしを縛りつけていたようです。

(皆さん、お互いに姉妹のお出かけ状況が気になっていたってことですね……)

 全てを理解したわたしは、どこに向けるでもない苦笑いを浮かべるしかなかったのでした――。

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