第150話 想像は真相から飛躍しやすい

 私達のいる場所は角度的に決定的瞬間が見えない位置。だからなんとかベスト見学ポジションまで移動を試みようとしたのだけれど――。

「ちょっ、リシアさっ、そんなに押さないでくださいっ、ゆっくり進まないとっ」

「急がないと一番見たい瞬間見逃しちゃうでしょっ、あっ――」

「きゃっ――!」

 見逃したくない気持ちから少々焦りすぎてしまい、私達は箕崎真衛達の方へ茂みをなぎ倒しながら倒れこむ。当然箕崎真衛達はさっきまでの行動を中断して音がした方を振り向くことになるわけで――。

「いったた……」

「あ~ん、もう少しでしたのに、尾行大失敗です~」

 そんな私達の後ろからはルリトが申し訳なさそうに顔を出した。箕崎真衛の側にいた真実はすぐに倒れた私達の元へと駆け寄ってきて――。

「……?」

 その時の彼女に私は違和感を覚えたの。おそらくリリムも私と同じ表情をしているのでしょうね。なんせ駆け寄ってくる真実の表情には驚きの要素が一切含まれていなかったのだから ――。

「大丈夫?二人共――」


            〇 〇 〇


 「はあああああああっ!?? じゃあ私達に気付いてて、あの一連の流れは最初から全部私達に見せつけるためだったってことぉ!?」

 真実しんじつを告げられたリシアちゃんが当然のリアクションをしていたので、僕は頬をかきながら返答する。

「あ~、う、うん……観覧車の中で、真実に誘われたから断り切れなくて……」

「あっ、お兄ちゃんひどいよっ。断ろうとした素振りなんてそんなに見せてなかったのにっ!」

「あ、あははは……」

 はっきりと驚いているリシアちゃんに対して、リリムちゃんとルリトちゃんはこの真実しんじつを意外にすんなり受け止めているようだ。

「まあお世辞にも精度が高い尾行とは言えませんでしたもんね~リリム達」

「真衛さんも、真実さんから切り出される前に気付いていたんですか? わたし達が見ている感じでは、普通に楽しく過ごしているようにしか見えませんでしたけれど……」

「うん、まあ……さすがに3回も後をつけられてたから……」

「3回――全部バレてますぅっ!!」

「でも最初の方は何してるのかなって純粋な疑問のままだったというか、尾行されてるとまでは考えてなかったんだけど……」

 僕は観覧車の中、ある程度景色を楽しんだ後の出来事を思い出す――。


 『それでさ、お兄ちゃん。乗る前に言ってた話したいことなんだけど――』

『っ、うん……』

『えっと……つけられてるよね? ぼく達。リシアちゃん達に……』

『ああ……やっぱり、後をついてきてるのかな……?」

『たぶん……。それでさ、ちょっとしたイタズラに協力してほしいな~って」

『い、いたずら……?』

『うん。このまま尾行されっぱなしっていうのも面白くないし、一矢報いるというか~……』

『……な、内容によると思うけど……』

『それなら耳貸して? えっとね――――」

『――――っ! それってその……真実は、大丈夫なの? その、抵抗感というか……』

『ちょっと恥ずかしいけど……お兄ちゃんが付き合ってくれるなら……ね?』


 「ちょうど死角になるように場所を考えて、台詞を言いながら顔を限界まで近づければ、リリムちゃん達からはそれっぽく見えるでしょ? 観覧車の中で出来る限り綿密な打ち合わせをしたんだよ? ねっ、お兄ちゃん?」

 僕が頭の中で回想をしていた間にも会話は進んでいて、僕は真実の問いかけに頷いた。

「はあ……それじゃあ手の上で踊らされてたのは私達の方ってことなのね……」

「まあ、先に真衛さん達のことを探っていたのもわたし達ですし……」

「えへへ、ごめんね? お詫びって訳じゃないけど、今日はみんなで夕ご飯食べない? 後でゆずはお姉ちゃんに連絡してみるからさ」

「ふむ……じゃあ許可が取れたらお邪魔しようかしら」

「それにしてもマミさんっ、演技だからってよくマモルさんとあんなこと出来ましたね? 一歩何か間違えば触れ合っちゃうリスクだってありましたよ~?」

「え? ぼ、ぼくは別に――ってそうじゃなくてっ! ぼくとお兄ちゃんはお互いにちゃんと信頼し合ってるからこそ出来たわけだから……。そっ、そういうことだよっ!」

 ニヤニヤしたリリムちゃんに話を蒸し返されたせいなのか真実は少し赤くなっていたけれど、何はともあれ真実とのお出かけはとりあえず平穏に終わったと思う――。


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