第147話 観覧車での改まったお話
購入したソフトクリームを持ちながら適当に座れる場所を探す真実とそれに付き添う僕。やがてふさわしい場所を見つけたのか真実が僕を呼び、僕達は並んでそこへと腰を下ろす。
「本当にいいのお兄ちゃん? ぼくだけ食べちゃっても……」
「うん、気にしなくても大丈夫だから。どうぞ召し上がれ」
僕の言葉で安心した表情になった真実はゆっくりと一口目を食べだし、そしておいしさを表すかのようにほっぺを押さえるしぐさを取った。そのうちお昼ご飯も食べるしあまり必要ないかなと思って僕は遠慮したわけだけど、真実を少しでも心配させてしまうのであれば僕も同じ味を共有した方が良かったかもしれないと今更ながら少し思い直してしまう。
ご機嫌な様子でソフトクリームを食べる真実を見ていると、僕まで嬉しくなって微笑むことが多いような気がした。別に今行動に移すわけじゃないけれど、いつでも頭を撫でていたくなるような、守ってあげたくなる小動物的らしさを真実には感じている。
「っ……やっぱり食べたかったとか? お兄ちゃん」
「っ、いや、別にそういうつもりじゃ……」
どうやら長めの時間見ていたため視線をそういう解釈で受け取られてしまったらしい。
「それでも、味見くらいどうかな……。はいっ、食べかけでも……大丈夫だよね?」
一応の確認と共にソフトクリームが僕の前へ。恥ずかしさからなるべく形の残った部分を食べようと思ったけれど、露骨に避けたととらえられるのは不本意なのでどうしても真実が食べた部分には触れてしまうこととなるわけで――。
「っ!」
「おいし~?」
「うん、とっても」
「良かったっ、えへへっ」
僕が考えたのと同じように味を共有したことを嬉しく思ってくれたのか、真実の機嫌がさらに良くなりソフトクリームを食べるスピードも少し速くなったように見える。何気ない心地よさを感じる時間も過ぎていき、僕達はその後さまざまなアトラクションを楽しむことにした。お化け屋敷では一緒に怖がることが出来たけど、ジェットコースターははしゃぐ真実と疲れを見せる僕で乗った後の反応が違ったり。楽しい時間はやはり経つのも早いらしく、いつのまにか空には赤みがかかりかけている。
「ん~っ、お兄ちゃん最後はやっぱりあれに乗らない?」
真実が指さしたのは遊園地のラストとしては定番の観覧車。僕も楽しさと同時に当然疲れも感じていたので、真実の提案を断る理由もなかった。僕の頷きに真実も微笑んでくれる。
「え~っとそうなると、あれを話してその後は――」
表情を戻して独り言を話し始める真実にちょっぴり違和感を覚えていると、真実の視線は再び僕へ――。
「お兄ちゃん、その……観覧車に乗ったら、ちょっと言いたいことがあるんだけど……」
「っ……?」
「だからね、かくごって訳じゃないけどさ……聞く準備だけ、しておいてくれると嬉しいな……?」
「う、うん……」
わざわざ改まって話すようなことなのだろうか。何を話すのかはわからないけれど、僕はただ真実の何かを含むような言葉と表情を受け止めるしかないのであった……。
〇 〇 〇
「こっ、これはもしかすると……もぐもぐ、クレープおかわりお願いしますですっ!」
「また? クレープ以外もあわせればいったいどれだけ食べてると思ってるのよ? 毎回買いに行く私の身にもなってほしいものだわ……」
「仕方ないじゃないですか、アトラクションにも乗れず尾行するとなると手に持ちながら手軽に食べられるものを食べるしか遊園地を楽しむ方法が無いんですから。もぐもぐ……まあいいです、どうやらこれから目が離せなくなる展開になるかもしれないですしっ」
「何か変化があったんですか?」
「マミさんが観覧車の中でマモルさんに改めて話したいことがあるそうなんですっ! これはどう考えても期待しちゃいますよねっ?」
「っ、まさか……嘘でしょ?」
「もしそうだとしたら、いったいどうなってしまうのでしょうか……。最初が真実さんだなんて、思っていませんでした……」
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