第146話 身長のこと以外は順調な日常

 真実と出かける際はいわゆる緊張が少ない。それは真実が望んでいた兄妹のような関係を続けている成果なのか、真実自身の性格や自然なスキンシップのせいなのか。おそらくその両方が影響しているのかもしれなかった。まあ僕がイメージしていた兄妹像とは少し距離感が違ったというか、思春期に当たるであろうこの時期で一緒のお風呂に入るとか、同じベッドで密着されながら眠ることになるとは考えていなかったわけだけれど。

 とはいえ僕達は本当に血縁関係があるわけじゃないし、本物の兄妹や僕の考えをそっくりそのまま当てはめなくても良いのかもしれない。真実が望まないことにはならないように、僕が気をつけていればおそらく大丈夫なはずである。それはゆずはさんやこのみちゃん相手でも変わらない。

 腕を組まれながら目指す目的地は真実の希望で遊園地。僕達が通う学園よりもさらに先のなんとか歩いていける距離にあるため少し遠出な道のりとなっていた。都会のだれもが知る有名な施設に比べれば規模は小さいけれど、それでも一日遊ぶには十分な設備が整っている。たどり着いた時に真実の感嘆する嬉しそうな声が耳に入れば、ここまで付き合ったことを後悔するはずもない。

「今日は目いっぱい楽しもうね、お兄ちゃんっ」

「うん、受付で少し手間取っちゃった分も取り返そうか」

 なにぶん真実の身長、僕への呼び方や組み合わせをはたから見るといくら僕の身長が低めでも真実はさらに幼い小学生くらいによく間違えられる。僕でさえ中学生くらいに見られることは決して珍しくないのだから。

「客観的に見たら理解はできるから慣れ始めちゃってはいるんだけど……。まあお兄ちゃん達がわかってくれてれば水に流せるくらいのことかなっ」

 真実の言葉に僕は微笑みだけを返していく。

「そういえばお兄ちゃんもぼく達の家に初めて来たときは間違えてたような気がするな~……」

 返していた微笑みが急に元へ戻らなくなり、汗が少し出てきたかもしれない。

「だんだん思い出してきたよ~? 謝ってもらったかな~?」

「えっ……真実……水に流せるくらいのことって――」

「ぼく、ソフトクリームが食べたいなあ~」

 真実の遠回しなお願いを仕方ないと受け入れると、真実は嬉しさを全力で表しながら僕に抱きついてくる。そのままの密着度が保たれながら、僕達は遊園地内を歩き始めるのだった――。


            〇 〇 〇


 「わあ~っ! 実は遊園地って、来たこと無かったんですよ~。リリムが見たことないものいっぱいですっ! 遊んできてもいいですかっ!?」

「あなたがいないと箕崎真衛達の会話まで探れなくなるでしょっ。ここの入場料だってあなたがお金持ってないっていうから私が払ってるんだけど……」

「え~っ! こんなにわくわくさせられてからのおあずけなんて酷すぎます~ごうもんですよ~血も涙もないんですか~ぼいこっとレベルです~!」

「あ~もうわかったわよっ! 今度個人的に連れてきてあげるから今は協力して頂戴っ」

「本当ですか~約束ですよ~もし破ったりしたらリシアさんのベッドに忍び込んで猫の毛をばら撒きますからね~セリアさんにもお話通しますから~」

「地味にエグいことやめてくれるかしら……。それにしてもあの受付は若かったから新人さん? 私達を中学生と小学生に間違えるなんてっ。見栄張りたいわけじゃないってのにっ!」

「まあまあリシアちゃん、真衛さんの時も似たようなやり取りがあったみたいですから……受付の女性も親切で言ってくれたんだと思いますし……。あんまり憤っていると、真衛さん達見失っちゃいますよ? わたしは遊園地内をずうっと歩き回ったり走り続けたり出来ませんので……」

「っ、そうね。これが最後の尾行なんだから、見失う訳にはいかないわっ。せめていつも私達が見てる箕崎真衛達以外の一面くらい見せてくれないものかしら……」

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