第145話 お風呂問題改善の兆し
「乙女心はフクザツですね、コノミさんも普段からもう少し素直になれれば良いのにって思います」
「結果的にこのみさんとの距離もぎゅっと縮まりましたし、落ち着くところに落ち着いたのではないでしょうか」
「まあ確かに盛り上がりはあったけど、相変わらず私が望む最高の結果は得られなかったわ。こうなったらやっぱり真実に一縷の望みを託すしかないわねっ」
「……正直リリムは真実さんが一番何事もなく平和ないちゃいちゃで終わると思ってます」
「リシアちゃんの願いはやはりと言いますか、あんまり叶いそうにありませんね……」
拳をギュッと握りしめながら斜め上の空を見上げるリシアちゃんを尻目に、わたしとリリムちゃんはこれからの行く末を何となく予想するのでした……。
〇 〇 〇
このみちゃんとのお出かけが終わった後日。一緒だったあの時には買わないと決めたキャンドルだったけど、それがようやく用意できたので僕は夕食後の夜に少しずつ準備を始めていた。決して大掛かりな作業ではないためもうすぐ終わりそうである。
「お兄ちゃん何してるの?」
最後のキャンドルを設置し終えたところで真実に気付かれたようだ。僕はその言葉に直接答えを返さず、その意図を含めて返事をすることにした。
「真実、皆を呼んできてくれるかな……?」
理解してくれた真実はすぐに居間などに戻り、ゆずはさん達を僕が今いる場所であるお風呂場までつれてきてくれるようだ。僕はその間にキャンドルへ火を灯していき、少し経つとみんなが集まってくれたので最後の円香さんが到着した時を見計らって僕はお風呂場の電気をOFFにしてみる。
「っ、わあ~っ!」
真実の目を輝かせたような声にようやく僕は胸をなでおろすことが出来た。人工的な光の無いバスルームにいくつも揺らめく小さな炎。色とりどりのキャンドルを淡く照らすたくさんの炎が、いつもと変わらないはずのお風呂場に新鮮さを与えてくれる。僕としてはなるべく邪魔にならないところにキャンドルを置いたつもりであり、幸い水島家の浴室は広めなのでキャンドルが置けそうなスペースは所々に存在していた。
「ずっと、ゆずはさんと出かけた時に共有された問題が気にかかっていたんです……。これなら少しは目のやり場に困らないというか、意識しなくなれるんじゃないかと……。いつもより足元とか気にしないといけないので、気に入らなかったら片付けますから……」
「いっ、いえそんなっ……。すみません真衛さん、工夫して頂いて……」
「すごいよお兄ちゃんっ! ぼくも入ってみたいな~っ!」
「買いたかったキャンドルってこのためだったんだ……。これならまあ、納得かな……」
口に出す言葉は違えどもゆずはさん達は概ね賛成してくれたようで、僕は今一度微笑みながら安堵する。
「頑張ったのはいいけどね箕崎君、薄暗いお風呂場に女の子を連れ込んでいったい何をしようとしてるのかしら? ゆずはちゃん達が何をされるかわからない恐怖については考慮しなかったの?」
対して円香さんは薄笑いを浮かべながら、されども鋭い指摘が飛ばしてきた。
「っ……そ、そうですよね。すみません、そんなこと考えもしなかったので……だからこそ、ゆずはさん達からの視点が抜けていました……」
「う~ん……でもぼくはお兄ちゃんのこと、信じても良いと思うよ?」
「せっかくこうして問題を解決してくれようとしたこともあるわけですし、私も真衛さんは信じるに値すると思います……」
「姉さんと真実が信じて証明した後なら、まあ……」
僕の代わりにゆずはさん達がフォローを返してくれる。円香さんもおそらくだけどからかう意味が大部分を占めていたみたいですぐに肩をすくめて見せた。
「ふふっ、それじゃあ私はこの薄暗さだし、手ブラくらいで箕崎君と入ってみようかな~っ」
「っ!? やっ、やめてください円香さんっ!」
僕に合わせてゆずはさん達からも口々に止められる円香さん。とにもかくにも、これでお風呂事情が少しでも良くなることを願いたい――。
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