第144話 たまには振り回される側へ

 「結局買い物終わったらすぐに帰ってきちゃったわね。このみはこれで終わりか~。な~んかあっけなかったわ」

「まあこういうときもあるというか、これが普通だと思いますよ? 普段のデートにドラマティックな光景を期待する方が間違ってます。ゆずはさんの時も思いましたけど、むしろ今までの私が知っている真衛さんとこのみさんでわたしは胸が撫で下ろせました」

「リリムも真衛さんとこのみさんの仲睦まじい姿と二人で一本のつまようじを見れただけでだいっしゅうかくですっ!」

 私達は箕崎真衛とこのみが水島家の中に入ったことを確認し、現在反省会ムードな雰囲気で雑談中。

「まあ、仕方がないから真実の方に期待しま――」

 そう私が言いかけた瞬間だった。再び水島家玄関の扉が開き、突然箕崎真衛とこのみがもう一度出てきたのだ。

「!!??!?」

 完全に油断していた私達はすぐに彼らの視線から逃れようとはしてみたけれど、案の定隠れきることが出来ず、箕崎真衛とこのみの視界に入ってしまう。

「あれ? リシアちゃん達……どうしたの? 何か用事?」

「え? あっ、えっと……そうそう、ちょっとゆずはと真実に……」

 私の言い訳に合わせてルリトとリリムも苦笑いしたり頷いたり。

「……そっか。二人は中にいるからね」

 そう言い残して真衛はこのみとどこかに出かけていく。遠ざかる箕崎真衛達を見ながら、私は内心期待が持てていた。

「どうやら、まだ終わったわけじゃないのかもしれないわね……」


            〇 〇 〇


 僕達が買い物のために足を運んだ大型店、そこに併設された映画館で僕達は映画を鑑賞した訳なのだけれど、帰り道でのこのみちゃんが話す言いわ――弁明を僕は何度も頷きながら聞くことになっていた。

「何度も言うけどね真衛君、急に誘われたから私だって事前に情報を得られなかったって言うか、単純な第一印象で見たい映画を選んだんだからね? つまりあんな恋愛シーンが挟まるなんて予測できなかったわけで、別にその――」

「う、うん、大丈夫。しっかりわかってると思うから。そ、それでえっと、楽しんでもらえたかな……?」

「っ……うん、真衛君が誘ってくれるなんて、思わなかったし」

「そ、そっか。良かった……。水島家に帰った時、このみちゃんの表情にその気持ちが感じ取れなかったから、とっさの行動だったんだけど、上手くいって。行きたいところもないって言ってたから、付き合わせるって形になっちゃったけど……」

「別に真衛君との買い物が楽しくなかったって訳じゃないけどね。慣れちゃってたって部分はあったかもっ。それと、行きたいところが無いってそういう意味じゃないから……」

「えっ……?」

「私が引っ張っていきたいところは特にないよってこと。真衛君、どこへでもついてってくれそうなんだもん。確かにそれも嬉しいけどさ……」

 そこで言葉が途切れ、僕達が話す距離が急激に縮まる。このみちゃんがそっと腕を組んでくれたから……。

「たまにはね、真衛君に振り回されてみたいな~って、思ってたんだよ?」

 その組合わされた言葉と行動に僕は誤魔化す意味も込めて言葉を返すけど、戸惑いが隠し切れない。

「こっ、このみちゃんっ、そのっ、むn――やわらかい部分があたって……!」

「もう……反応したら慣れてないのまるわかりだし、こっちまで恥ずかしさが増しちゃうでしょ? 私にだって感覚があるんだから、気づいてないとでも思ってるの?」

「いっ、いや、でも……っ」

「真実とも交わしてるスキンシップなのに、私とは出来ないってこと? どうしてもいやなら離れてあげるけど!?」

 ちょっぴり涙がうっすら浮かんでいるような気がしなくもないこのみちゃんを前にして、いち早く自分の気持ちを伝えなければいけないと察する僕。

「えっと、そ、そんなことないから。嘘とかじゃなくて本心で、ぜったい……」

「…………」

 このみちゃんは表情を緩めこそしなかったけれど、とりあえず「まったく……」という言葉が聞こえそうなくらいの納得はしてくれたようだった。

 こうして僕はこのみちゃんから時々発せられる

「今も感触を楽しんでるの? えっち」

という言葉を苦笑いで受け止めながら、水島家への帰り道を歩き続けることになるのだった――。

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