第141話 順調を表すような爪楊枝

 「相も変わらず箕崎真衛はこのみの尻に敷かれまくってるわね」

「やはりユズハさんとのデート模様とは差がすごいですね、でもそれはコノミさんがマモルさんに心を許している証でもありますですよっ。そう思いますよねルリトさん!」

「っ、そ、そうですね……。このみさんがあのような自分をさらけ出す対応をする人は真衛さん以外に見たことありませんし……」

 リリムちゃんに頷きつつも、わたしはこのみさんの追及をやめたことについて考えていました。真衛さんもあの言動から察するに、おそらく気が付いたと思われます。

「――えっと、リシアちゃん、リリムさん。このみさんに何か違和感を感じませんでしたか……?」

「このみに違和感? 別に何も感じなかったけど?」

「あ~リリムも感じはしましたけれど、きっとマモルさんがより信頼されるようになっただけですよ。そう納得出来ましたっ」

「そ、そうですか……」

 確かにそう考えればつじつまが合います。わたしの考えすぎでしょうか。

「追いかけないと置いていかれちゃうわ、いきましょっ」

「マモルさん達の会話も聞き逃しちゃいますっ!」

 まああまり考え込むほどのことではないのかもしれません。わたしはすぐにリシアちゃん達に追いつこうと歩き出しました。


            〇 〇 〇


 このみちゃんと訪れたのは日用品を購入するためにいつも足を運ぶごくありふれたお店の食料品コーナー。徒歩でたどり着けるこのお店の特徴を強いて上げるとすればそのお店が雑貨その他を扱う結構な大型店だということくらいだろう。

 このみちゃんは僕の持つカゴに飲み物や食べ物、料理の材料などをある程度選びながら入れていく。並んでいる様々な品物に僕も色々興味を惹かれてしまうけれど、このみちゃんの目が光っているので安易にカゴへと放り込むことは出来なかった。それでも僕の希望やゆずはさんと真実に頼まれたもの、自分用のアイスなどをしっかり確保してレジへと向かう。

「っ……」

 途中で商品が試食できる場所を見つけたため一緒に立ち寄り、まずはこのみちゃんが爪楊枝を使って一口。表情から察するに結構おいしいみたい

「はいっ、真衛君っ」

 僕は持っている買い物カゴとエコバッグによって両手が塞がっていたため、このみちゃんが爪楊枝で刺した商品を口元へと持ってきてくれた。食べてみると概ねさっきこのみちゃんが浮かべた表情と同じような感想を抱く。このみちゃんも意見の一致を察したのかその試食した商品もカゴに入れた後、再びレジへ。

 順番待ちの間にこのみちゃんは買い忘れが無いか確認をしているようで、僕はその間辺りを見回してみる。これだけ商品が並んでいればやはり気になる箇所も心残りな部分も出てくるけれど、結局僕はこのみちゃんに視線を戻すことにした。

「ど~したの?」

 このみちゃんのいぶかし気な眼差し。

「っ、ううん、何でもないよ」

 別に何かを疑っていたわけではなかったのかこのみちゃんはすぐに表情を戻して微笑みを向けてくれる。僕もそれに合わせて、表情を和らげるのであった。


            〇 〇 〇


 「見ましたかっ? 確かにコノミさん達使ってましたよねっ?」

「騒がないでリリムっ。危うく箕崎真衛達に見つかるところだったじゃないっ。ただでさえ猫がお店に入れないからって人間に姿を変えたせいで三人分になってるんだからっ」

「ですけどあれってどう見ても間接的に……っ! あれで恋人じゃないとか……っ恋人じゃないとか……っ!」

「ま、まあ……それだけお互いに気を許してるってことなんじゃないでしょうか……」

「このまま家に戻ったら、いたってふつ~の買い物デートね。つまらないわ」

「リシアちゃんはいったい何を期待してるんですか……?」

「ユズハさんとのデートもアイスクリーム屋さんが話しかけなければ普通のいちゃいちゃでーとでしたからね~」

「本来その平和が、一番のはずなんですけどね……」

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