第140話 次のお出かけは彼女のお尻に敷かれつつ

 このみちゃんと出かける日では僕がこのみちゃんを少し待たせる状態となってしまうことが多かった。このみちゃんだって女の子なりの準備時間はかかっているのだけれど、前もった行動を心掛け準備を始めるのも早いため僕の方が慌てがちになるのである。姉妹の中で一番しっかりしているというポジションは今も揺るがず、休みの日にいつもより多く微睡まどろんでいるとよく起こされてしまっていた。

 玄関の扉を開けてすぐに見つけたこのみちゃんは壁に寄り掛かっており、待たせているといっても時間にして数分のはずなので不満を表情に出したりなどはしていない。デニムのジャケットを羽織りデニムのショートパンツを履きこなしているけれど、その長さが短くほとんど露出した太ももからすらりとのびた脚は女の子特有の物。家の中でも見かけていたし今だって長い時間視線を向けていたわけではないはずなのに、顔へと視線を戻した時には僕を見つけた時の表情が脚を見るなと言わんばかりのジト目に変化していた。そして僕がこのみちゃんの側へとたどり着いた途端に開口一番――

「――えっち」

「そ、そんなに注目してたかな……?」

「視線を向ける必要がないのっ。全く、出かけてる最中ずっと真衛君のやらし~視線を感じないといけないんだ」

「い、いや、えと……気になるなら、もう少し長いのを履くっていう方法も……」

「ふ~ん、自分の下心ある視線を棚に上げて、私のファッションが真衛君を誘惑してるって言いたいの?」

「そっ、そういうわけじゃ――」

 相変わらずこういったことに目を光らせるこのみちゃんだけど、それでも昔よりはどことなく、対応に余裕が出てきているような気がしていた。慣れや呆れが積み重なっているのかもしれないけれど、その中に少しでも信頼が含まれていることを信じたい。

「見逃してほしいなら、今日もしっかり荷物持ちを頑張ることっ。行こっ、真衛君っ」

 僕を責めていた表情はすぐにやわらかくなったので僕もそれに応えるべく歩き出し、前にいるこのみちゃんの隣へと追いついていく。このみちゃんの荷物持ちという言葉からもわかるように、今日は買い物に付き合うこととなっていた。私的な趣味関係の雑貨も見るかもしれないけれど、大部分は水島家の食事を作る材料や日用品が目的。僕達は歩きつつ雑談を交えながら、購入品についての話も進めていく。

 そしてある程度話さなければいけないことも話し終わった頃――、

「あっ、そういえば真衛君、この前姉さんと寄り添って帰ってきたよね? ど~いうことなのか、説明が欲しいんだけど?」

「えっ……?」

 再び追及のジト目を向けられる僕。ゆずはさんとはより打ち解けられた故の行動なので説明できない訳ではないのだけど、突然の話題に僕は戸惑ってしまう。

「家で問いただすと円香さんにからかわれる可能性とかもあったから、ふたりきりの今、誰にも遮られないもん。、耳に入れとかないとねっ」

「え、えっと……あれは僕が気を遣ってた部分をゆずはさんが理解してくれたことで、より気兼ねする必要が無くなったからというか……」

「……そっか。まあ姉さんと打ち解けられたんだとしたら、悪いことないよねっ」

「っ……えっ? あっ、うん……」

 このみちゃんは今の言葉で納得したようだけど、僕はこの状況をすんなり呑み込めなかった。別にやましいことを隠してはいないので構わないのだけれど、このみちゃんならもう少し追及してくると勝手に思い込んでいたのだ。

「真衛君なに? なんか拍子抜けしたような顔してるねっ。もっと疑ってほしかったの?」

「っ、そっ、そんなこと……」

「私らしくないと思うなんて失礼じゃないかな真衛君?」

「ご、ごめん……」

 このみちゃんは僕の謝罪に対してくすっと笑う。違和感は拭い去れないまま、僕はこのみちゃんと歩幅を合わせることしかできないのだった――。

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