第139話 出来事通じてまた一つ

 結局僕は散々頭を悩ませたあげく赤面しているゆずはさんになだめる言葉と帰宅を促す言葉くらいしかかけられず、こうして元来た道を歩いている。ゆずはさんが無言のままでも頷きこうしてついてきてくれているから良かったものの、当然出かけた時のような会話は交わせていない。今でも必死に沈黙を破ろうと時折ゆずはさんの様子を確認しながら思考を巡らせているのだけれど――

「…………」

「…………」

 たまたま目が合った時に返されたのは、どことなく申し訳なさとかわいらしさが残った苦笑いだった。とりあえずこの今までと違うリアクションが小さなきっかけに思えたので僕は話し始めてみる。

「……その、ごめんなさいゆずはさん。恥ずかしい思いをさせてしまって……」

「っ、いえ、真衛さんのせいでは……。それに、家で普段通りの生活をしていれば回避できるというわけでもないので……」

 ゆずはさんの言葉で円香さんの怪しい笑顔が頭によぎり、妙に納得してしまう僕。

「恥ずかしい思いはしましたけれど、私の疑問は晴れました。私の自覚が足りなかったんですね……」

「っ、いやっ、別にゆずはさんが悪い訳じゃないですよ……」

「ずっと真衛さんに気を遣わせていたにもかかわらず、それを真実さんとの差だと思い込んでいたんです。私に真衛さんを遠慮させるだけの何か不快な落ち度があるのではないかと……。でも、大丈夫なんですよね……? 気をつけていれば、こうして真実さんに似たスキンシップをとっても――」

「っ……!」

 僕が驚いたのは、不意に予期せぬ感触を感じたから。

「ゆ、ゆずはさん……」

 話しながらゆずはさんは僕の腕に両手を添えてそっと寄り添いつつ歩き続ける。勿論僕の腕にはゆずはさんの両手の感触は伝わっても、寄り添う形故に胸の感触は伝わってこなかった。

「あ、ありがとうございます。すみません、気を遣わせてしまって――」

「そ、そんなこと……。今まで真衛さんに気にかけてもらっていたことですから……」

 正直近づいたことでゆずはさんの髪から漂う女の子らしい香りが僕にゆずはさんを意識させない訳じゃないけれど、誤解も解けてゆずはさんも前より自覚を持ってくれたのであれば何よりだと思う。会話をしているうちに僕もゆずはさんも表情が柔らかくなり笑顔からもぎこちなさが薄れていった。言葉を交わすタイミングが、少しずつ出かけた時の雰囲気に戻りつつあって。

「えっと、今日の夕食は何にするか、もう決まってるんですか?」

「そうですね、何にしましょうか。えっと――――」

 今日はまた一つ、心のつながりを増やす一日を過ごせた気がする――。


            〇 〇 〇


「うむうむっ、すれ違いは無くしておくに越したことはないですよ。まあリリムだったらマモルさんみたいな遠慮なくユズハさんの胸を楽しんじゃいますけど」

「私もまあ……。だって気になりはするじゃない。弾力とか触り心地とかその他もろもろ……ねぇ?」

「――もしかしてリリム達、男の子であるマモルさんよりシタゴコロアリアリですか……?」

「そういうわけじゃないわよっ。私達のは純粋に探究心の域を超えないというかどうなってるか興味があるだけでやましい気持ちって訳じゃないものっ」

「まあ確かにそうなんですけどね……」

「……ええっと、とりあえず今度こそゆずはさん達の調査は終わりでしょうか……」

「そうなるのかしらね。け~っきょくゆずは達の仲睦まじい姿を見せつけられただけでこれといった大きな収穫は無かったわ」

「リリムはマモルさん達が距離を縮め合う濃ゆ~い時間が過ごせて大満足でしたけど」

「リシアちゃん、わたしはやっぱりこれ以上続けても成果は薄そうだと思いますし、もうやめた方がいいんじゃ――」

「何言ってるのルリトっ、調査はまだ始まったばかりじゃないっ。あとふたり分も残ってるんだからっ!」

「コノミさんとマミさんの調査はおあずけなんて、リリムも耐えられないですっ!」

「そ、そうですか……」

(ごめんなさい真衛さん。もう少し真衛さんのぷらいべーと、のぞくことになりそうです……)

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