第138話 お騒がせな屋台のお姉さん

「…………ゆ、ゆずは――――」

「っ――」

「――――さん……」

「……まあ、ある意味期待通りのオチやな~」

「や、やっぱり厳しいですよっ。違和感しかないみたいな――」

「せやな~、似合わん思っとったけど、それ以上やったわ~」

「えっ、それって――」

「最初からお互いの呼び方が他人行儀やなくて尊敬の意味がこめられてるって理解してたってことや~。堪忍な~」

「…………はあ……」

 僕はどうにもそういう機会が多い気がするけれど、やはりからかわれやすい、からかいやすい性格なのだろうか……。

「まあ、それにしても真衛はんがこないやと三姉妹は色々大変やろな~ちゅうこととがわかったわ~。ゆずははんも何か真衛はんに言いたいことの一つや二つ、あるんとちゃうの~? いくら仲良うゆうてもな~」

「そ、そんな……真衛さんにはいつも優しく――」

「してもらってるのは予測できるんよ~。その部分は心配してへん。せやけどな~、もっとこう、別の部分や~。普段から真衛はんと接してるゆずははんなら、察しがつくんやないかな~?」

 曖昧な言葉で濁され真意が全く読めないけれど、どうやらゆずはさんは僕よりもその意図が理解できているらしい。隣にいる僕にも聞こえないほどか細い声と共に、口元だけが動いている。

「ふんふん、ほうほう~。それはどんな時なんや~?」

「……!」

「ここまで言うてしもたんやから、ほらほら隠さずに話して~な~」

「……」

 お姉さんはその真近に耳元を近づけ話を聞いているようだ。

「なるほどな~。真衛はん? ゆずははんは妹との、特に真実はんとの接し方に差を感じとるらしいで?」

「えっ……?」

「おんなじ状況でもみょ~に遠慮がちな時があるし、もちろん今のようにナチュラルな時もあるみたいやけどちょっぴり不安やて。変化させる必要性があるんかっちゅうことやな~」

「っ、そ、それは……」

 確かに真実とゆずはさんの接し方が全く同じかと言われれば明確に違うと言えるだろうし、真実もそのことに関しては漏らしていたから、やっぱりゆずはさんも気にはなっていたのだろう。僕自身も自覚していてもちろん理由があってのことなのだけど……。

「ただ~、これは私にも予想がつくことやから、真衛はんが言わへんならお姉さんが言うしかあらへんな~。聞く覚悟はあるんか~ゆずははん?」

 ゆずはさんはその言葉にこくりと頷き表情を引き締める。

「ほなら言うけどな~、ずばり~、それはゆずははんがエロいからや~」

「!!?!?」

「ちょっ……!!?」

「スタイルもそうやけど、私から見ても羨ましい大きさやしなあ。まさか同じベットで一緒に眠ったりお風呂入ったりしてるとは思わんかったし、ゆずははんにその気が無くとも、知らないうちに真衛はんをその胸や身体で誘惑しとるわけや~。無防備に眠ってたらえっちなイタズラされてもおかしゅうないで~? まあ同時に真衛はんが眠ってたらゆずははんが頬つっついたりも出来るってことやけどな~。それに真衛はん、ひざまくらの時すぐに体勢変えたのは真下から見える膨らみに耐えられへんかったからやろ~?」

「なっ……と、とにかくっ、ゆずはさんの胸をまじまじ見つめないでくださいっ! っていうかいつからどこまで見てたんですかっ!?」

「ん~? なんや私がゆずははんと同性でも許さずひとり占めかいな~、いけずやわ~」

「そっ、そういうことじゃありませんっ!! 言動と合わせて立派なセクハラだからですっ!」

「ふ~ん、ほな真衛はんはずっとゆずははんに不安を抱えさせたままでいたかったんか~?」

「っ……いや、それは……」

「ちゃんとゆずははんに覚悟の有無を確認とったし、真衛はんもだからこそ遠慮してること言いにくかったんやろ~」

「意図するところはそんなに間違ってませんけど誤解を受けるような言い方はやめてくださいっ! 僕この後顔を赤くして俯いてるゆずはさんになんて声かければいいんですかっ!?」

「そこは真衛はんが頑張るところや~。ゆずははんの疑問も解消されたことやし、後はお二人で仲良うしたってや~。ずっと屋台を空けとるわけにもいかへんしな~。あ~忙しい~いそがしいわ~」

 新しく誰かが入ってきたわけでもないのに早口でそう言いながらアイスクリーム屋のお姉さんはそそくさと屋台に戻っていき、ベンチには僕とゆずはさんだけが取り残されたのだった――。

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