第137話 僕達の呼び方事情
「ルリトさんリシアさんっ! ひざまくらですよひざまくらっ! ユズハさんの膝は極上の寝心地でしたからね。それに初めて上を見上げた時は迫力に圧倒されてしばらく目が離せなかったのを覚えてますっ」
「さすがに箕崎真衛は気まずすぎてすぐ体勢を変えたみたいね。この後家に帰るっても言ってるし、ゆずは達に関してはこんなところかしら。ふたりは良いかもしれないけど見る分には変化が少なくて、せいぜい箕崎真衛がヘタレてたくらい。知ってるわよそんなこと、もっと決定的な弱点じゃないとイジれないじゃない。このみと真実の時にはもう少しアクティブさを期待したいわっ」
「い、一応わたし達は後をつけているわけですし、文句をつけるのもどうかと……。わたしは真衛さんとゆずはさんが幸せそうで微笑ましかっ――っ、あの人はたしか……」
「? 何やら見知らぬ大人の女性がマモルさん達に近付いてますっ。フシンシャでしょうかっ?」
「っ、ああ、あの人は近くにあるアイスクリームの屋台やってるお姉さんよ。ここのアイスクリームおいしくて、私も何度か足を運んでるの。隠れた名店――名屋台? っていうのかしら、このみが私以上に常連みたいって言ったら、少しはおいしさが伝わるんじゃない?」
〇 〇 〇
「今日はふたりっきりなんやな~。落ち着いた時間を過ごしにここまで来たっちゅうところか~?」
突如響いた声に閉じていた目を開くと、そこにはさっきまでアイスクリーム屋さんの屋台にいたお姉さんがすぐ側で僕をのぞき込んでいた。
「……えっと、お客さん待ってなくて大丈夫なんですか……?」
「いやな~、ここの周りがあまりにいちゃいちゃしてておアツいもんでアイスが溶けそうやからデートにクレームを言いにきたんよ~」
「…………」
起き上がって周りを見渡しても今現在は僕達以外に人がいないので、こんな冗談をのたまうくらいお姉さんが絡みに来たということだけは理解する。
「デートとかそんなのじゃないですよ、同じ家に住んでるので今日はゆずはさんと一緒に出かけてるだけですし……」
「真衛さんは、私達姉妹の行きたい場所に付き合ってくれているんです」
少々戸惑いながらもそれぞれに答えを返していく僕達。
「世間一般ではそれをデートっていう気がするけどな~。それにひとつ屋根の下で暮らしてるっちゅうことは、毎日お泊りデートしてるようなもんやんか~」
「っ、そ、そうでしょうか……少し違うような――」
「そやで~っ。ただしかしまあ、これだけ仲睦まじそうにしててもお二人さんまだ‘‘さん付け‘‘で呼び合ってるんか~?」
「っ――」
「っ……」
言われて僕も言葉に詰まった。確かに事実ではあるけれど――
「でも、かといって自分の性格やゆずはさんの雰囲気上他の呼び方も思いつきませんし、もう呼び慣れてしまっていると言いますか……」
「百歩譲ってゆずははんはまだしも、真衛はんは同年代でさん付けなのゆずははんだけやあらへんの~?」
「う~ん……やっぱり僕には他の呼び方が思いつかな――」
「呼び捨てや~っ☆」
「!!?」
にっこりとした笑顔で爆弾を投下された僕は即座に両手と首を左右に何度も勢いよく振って自分の意思を示した。
「むむっ、無理ですよそんなっ――!!」
「膝枕まで出来とう仲やのに今更何言うてるん。ゆずははんやてちょっと新鮮かもみたいな興味アリアリの期待した表情しとるで?」
お姉さんの言葉に導かれるようゆずはさんへと視線を向ける僕だけど、既にゆずはさんは頬を染めて俯いているためどこまで誇張された表現を受けたかは窺い知ることが出来なくて。
「じゃ、じゃあ、その……ゆずはさんが構わなければ、えっと……」
僕はしどろもどろになりながらも、再び僕の方に顔を向けてくれたゆずはさんに向けて口を開いた――。
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