第132話 正体を明かした子猫との語り合い
子猫の姿に戻ったリリムはマドカさんに抱えられ、水島家の玄関から外へと向かいます。マドカさんは庭にある木に身体を少し預ける形で寄りかかり、リリムの頭を撫でてくれるのです。
「まあまあ上出来な説明だったんじゃないリリム? 正体の明かし方は予定と違ったみたいだけど――」
「あう……すみませんですマドカさん……」
「構わないわ、そろそろあなたもあの姿に戻れる頃だと思ってたから」
「マドカさんが何を話せばいいかのフォローもしてくれていなければ、説明だって危うかったかもしれません……」
「ふふっ、反省はそれくらいにしておきましょう。初対面の印象付けまである程度成功自体はしているはずだし」
しゅんとするリリムにもマドカさんは優しいのです。過程にあまりこだわらないのは、対応力の高さからなのでしょうか……。
「一瞬驚きました。かなり警戒度の高い言葉を吐かれたので……」
「演技ならあれくらいでも十分でしょ。監視することにしておけば今ここで話していても不自然に映りにくいって名目よめいもく。箕崎君達はそこまで疑り深い訳じゃないけど、念には念を入れて損はないと思って」
リリムは予期せぬ形で正体がばれてしまい、説明するだけで精一杯だったので、そこまで考えてくれていたマドカさんには本当に感心しますです。
「マモルさん達に伝える情報は、まだあの程度で構わないんですよね?」
「箕崎君達にとっては突拍子もない話だしね。少しずつ整理する時間を設けた方が箕崎君達もわかりやすいだろうし、伝えてはならない情報だってあるもの」
「源となる純粋さ……マモルさん達に話したことも、間違いではないんですけど……」
「彼らの源が成長するにつれて、アミュスフィアは研ぎ澄まされていくわ。でも彼らの純粋さはより自然に近いものでなくてはならないの。研ぎ澄まされるからなんて目的が混じらないようにしないとね。混じっても大丈夫なのであれば、箕崎君達を巻き込むこともせずとっくの昔に私達だけで動けてるはず。こちら側にいるのだって、箕崎君達がしっかり受け止められるようアミュスフィアに制限がかかる故なんだから」
「…………」
何も言わないリリムの無言をマドカさんは肯定と受け取ってくれたようで、話は先に進みます。
「箕崎君達に期待する分、純粋さが存在しない分、私達は箕崎君達が持たない知識と経験を活用していかないと。これからも箕崎君を中心に見守り、同時に試していくわけなんだけど、内に秘める純粋さだけを見ればあの中に箕崎君以上の卵がいるかもって私は思い始めてるわよ?」
「っっ! それって――」
「円香さんっ!」
会話が途切れた原因である突然響いた声の方向へマドカさんと一緒に顔を向けると、マモルさんがこちらへと歩いてくる姿が見えました。
「そろそろご飯の時間なので呼びに来たんですけど……リリムちゃんのこと、やっぱりまだ警戒してるんですか?」
「その警戒心を少なくするために、今は訊きたいことをたくさん尋ねていたのっ。でもまあだいぶ話し込んだし、ご飯出来たなら一区切りの時間としてちょうどいいかもしれないわね。ちょっと質問攻めにしすぎたかしら? 疑ってごめんなさいリリムちゃ~ん、おかげでだいぶ疑惑も晴れたからっ」
マドカさんはさっきと違う明るめな雰囲気を即座に発してリリムをぎゅ~っと抱きしめます。
「……まあ、仲良くなれたなら何よりですけど……」
「胸のつっかえが取れたみたいな気持ちだからご飯もおいしく食べられそうっ。行きましょ、箕崎君っ」
リリムを抱えたままマモルさんと水島家に戻っていくマドカさん。心の中で苦笑いが浮かびますけど、表情に出さずここまで堂々と偽れるのも、マドカさんのすごさなのかもしれません……。
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