第130話 解かなきゃいけないその誤解

 「「「「「………………」」」」」

 僕の声を最後に今まで騒がしかった部屋には沈黙が流れている。このみちゃん達がお互いに顔を見合わせ発した言葉の意味を汲み取ろうとしている戸惑いの沈黙だと理解した僕は、続く言葉で先程叫んだ内容を補足していくことにした。

「だ、だから、その……直接訊いたのと変わらないぐらいしかわからないっていうか、その上すごく疲れるから使ったこともほとんど無いっていうか……」

 それによって僕が言いたいことを大体把握出来たこのみちゃん達の視線は、真偽を確かめる意図も含まれているのか即座にこの件について一番詳しそうなリリムちゃんの方へ。リリムちゃんにも視線だけでこのみちゃん達の訊きたいことが伝わったらしく、苦笑いをしつつ話し始める。

「あっ、え~、ほんとに細かい部分はマモルさん自身でないとわかりませんけど、おおむねマモルさんが話したことは真実しんじつだと思いますですよ? 現在考えていないことや心の奥、個人情報まで分かると仮定したら今まで一緒に過ごしてきた経験上食い違うことも多いと思いますし、乗り越えてきた主にコノミさんやリシアさん関係などもより迅速かつ大胆に、マモルさん自身へのリスク無く解決出来ていたのではと考えます。その慎重さと一生懸命さが、マモルさんの無実を証明しているのではないでしょうか。コノミさん達の恥ずかしい恰好についても、マモルさんが意図して顔を真っ赤にすることなんて出来ないはずですから、初々しい反応を見せている限り大丈夫かと……」

 リリムちゃんのフォローによってこのみちゃん達はやっと肩の荷が下り胸をなでおろせたようで、僕への誤解も解けたみたい。

「別に構わないじゃない。恥ずかしい恰好はともかく、たとえ秘め事を知られてたって箕崎君がいつもと変わらないならそれは受け入れられた、その秘密を含めてこのみちゃん達だって尊重してくれたことになるわけだしっ」

「良くありませんっ!! 順序ってものがありますし勝手に知られてたら恥ずかしくてもう真衛君の顔見れなくなるじゃないですかっ! 打ち明けるかどうか、そのタイミングくらい自分で決めたいですっ!」

「ふ~ん……ならそこにいる子猫ちゃんに箕崎君が何か尋ねないよう気を付けておいたほうがいいんじゃない? 子猫に秘密なんて隠さないんだから水島家で過ごしてきたのが事実なら、私がさっき言った大部分の情報をあの子持ってるわよ?」

「わっ、わっ、わっ、よ、余計なことを言われちゃいました……あははは……」

 再び向けられた別の意味での視線に対してリリムちゃんは目をそらす。その次に向けられた僕への視線もリリムちゃんから恥ずかしい情報を引き出すなという意味だと流石に察することが出来たから僕は必死に首を縦に振った。ただここまでこのみちゃん達が恥じらう原因となった考えは全部円香さんによるもので、僕は円香さんの発想こそが根本的に気をつけなければならないことなんじゃないかなと密かに思う。

「ま、まあマモルさんの容疑も晴れたようですしその話題は一旦置いておきまして、い、一応最後に確認しても良いですか?」

 これ以上深堀りされたくないことは誰の目にも明らかなリリムちゃんの話題そらしだけど、誰も特に話を戻そうとまではしないようでリリムちゃんの言葉を待つ僕達。

「えっと……皆さん本当に誰もリリムに、不気味さを抱かないのですか……?」

「えっ……?」

 この沈黙は、さっきまでの戸惑い混じりとはまた違うもの。真実の疑問符が漏れる中で、それは緩んでいた部屋の空気を少し張り詰めさせる役目を果たす一言だった――。

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