第129話 子猫の説明後、解釈の怖ろしさ

 「ねえねえ、リリムちゃん達の世界でみんな子猫とかになれるなら、それぞれ思いおもいの姿で過ごしてるの?」

「っ、いえ、リリム達はむしろ少ない方で、大体の方は真実さん達と見分けがつかない定まった人の形をしています。その方がアミュスフィアの結びつきも強いので、リリム達は能力面から見るとあまり優秀じゃないのです」

 無邪気な質問を問いかける真実と答えるリリムちゃんを少し微笑みながら眺めつつ、僕は僕でリリムちゃんからの情報を整理しようとしていた。リリムちゃんの発言から考えることもあるし、杞憂であることを願いたい――。

「あの、真衛君?」

 リリムちゃん達を見ていた時とは違って難しい表情をしている僕に話しかけてきたのはこのみちゃん。その様子からどこか一刻も早く情報を得たい焦りみたいなものが見え隠れしているようで。僕はすぐに表情を緩め、向きをこのみちゃんの方へ。

「どうしたの? このみちゃん」

「その……真衛君は心が読めるって言ってたけど、いちおう私達のこと、どこまで把握してるのかなっていうか……」

「っ――」

 そういえばリリムちゃんのインパクトで話の中心とはならなかったけれど、このみちゃん達からすれば僕についても気にせずにはいられない話題だっただろう。リリムちゃんも細かい部分には触れなかったし、僕から誤解を解かなくちゃいけない。

「姉さんとも話したけど、私達以外も気になってることだと思うし……」

 このみちゃんの言葉で質問していた真実やお互い会話していたルリトちゃんとリシアちゃんもみんなが僕へと注目する。みんなの不安を解消するためにも詳しい解説を始めよう。

「いや、僕は心が読めるといっても――」

「そりゃあたとえ箕崎君に見られたら恥ずかしすぎる秘密でも隅からすみまでぜ~んぶ丸分かりでしょ」

「「「「「っっっ――――!!!」」」」」

「!!?!?」

 説明しようとする僕を突然遮り円香さんが何故か嬉々として語り出す。リリムちゃんの話を聞いていた時は静かだったはずなのに……。

「心の内部なんて個人情報プライバシーの宝庫なんだから、デリケートなスリーサイズや体重はもちろんのこと、ひそかに悩んでいるカラダの悩みや箕崎君と一緒に眠らない時それぞれ自分の部屋で行ってる内緒の秘め事まで理解しながら箕崎君は私達と接してくれてたってことになるわよねえ……」

 円香さんの意味深な発言にこのみちゃん達はみんな程度の差こそあれみるみる顔を真っ赤にしていくのが見て取れて――。

「ち、ちがっ、僕は――」

「じゃ、じゃあ私の気持ちも知ってて……!」

「解釈によっては相手が過去に見ていた記憶を覗けるかもしれないし、そこには当然このみちゃん達自身の下着姿や一糸まとわぬシーンだってあるわけでぇ~」

 追加された言葉でこのみちゃん達は咄嗟に両手で隠したい部分を服の上から覆い隠す。

「何も着けないでゆずはちゃんの胸を真実ちゃんと一緒に堪能したお風呂シーンも――あら、隠そうとしたって意味の無い抵抗よ? 既に箕崎君にとっては細部まで深々と刻み込まれたいつでも好きな時に思い出せてこれから先も随時更新し続けられる記憶なんだから」

「箕崎真衛、アンタ……っっ」

「真衛君……何か言い残すこと、ある……?」

 ぷるぷると今にも怒りが爆発しそうな二人を前にして、気圧されながらも言葉を紡いだ僕。

「お、お願い……説明させて……」

「へぇ……いったいどんな遺言をのたまってくれるのかしら……?」

「言い訳をに聞いてあげるから話してみて……?」

 頭に激怒マークをいくつもつけたように感じられるこのみちゃんとリシアちゃん、恥ずかしさのあまりずっと何も言わないゆずはさんや真実、ルリトちゃんから感情に合わせた視線を浴びせられつつ何とか話す機会を与えられる。

「こっ、心が読めると言ってもみんなが僕に伝えても良いことしか読み取れないからっ……!!」

「「「「「っっ――――」」」」」

 その時ようやく僕へと向けられる恥じらいと怒りの視線が薄らいだような気がしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る