第127話 ひと時緩んだ雰囲気と子猫の目的

 再び僕の部屋に皆が揃い、僕の部屋にいる人数と同じ数の飲み物が前に並べられてからリリムちゃんはジュースを一口飲むと口を開く。本来であれば、さっきの内容に即した話が始まるはず――だったんだけど……。

「……えっと、別に構わないんですけど――皆さん、話を聞く雰囲気がさっきと違いすぎませんか……?」

 その第一声はさっきのようなリリムちゃんに関係したものではなかった。ゆずはさんが飲み物のために部屋を出て行った時から少し経って真実は追随するかのようにメロンを持ってくると言い出し、このみちゃんも影響を受けたのかアイスを取りに行き、現在それぞれ口を動かして味わいながらリリムちゃんの話を待っているのだ。かといって僕もジュースと一緒に自分の前へと差し出されたカットメロンとカップアイスをわざわざ断るほどでもないかなとは思っているのだけれど。リリムちゃんを含めたみんなの目の前だって同じ光景であり、中心にはポテトチップスなどのお菓子類まで用意されている。とりあえずリリムちゃんが今まで一緒に過ごしてきたということ自体は理解されたのかもしれなかった。

「もぐもぐ……結構長くなりそうだったから……。だいじょ~ぶ、しっかり聞く気はあるよ。もぐもぐ……」

「はいルリトっ、こっちの味も食べてみない? あ~んっ」

「リっ、リシアちゃん、恥ずかしいので今はちょっと……」

「もう……じゃあ声はいらないからっ」

「っ、そ、それでしたらまあ……。いっ、いただきます……」

「あ、あはは……だ、大丈夫かな? リリムちゃん……」

「や、やはりゆりゆりしいのもなかなか――」

「リリムちゃん……?」

「はわっ!?? っ、えとっ、マモルさん……?」

「いや、その、さっきの続きを聞きたいなって……」

「そっ、そうですね、はいです、ありがとうございますです、話しますです……」

 今の雰囲気のせいなのか若干挙動不審になりながらも、リリムちゃんは再び話し始めてくれた。僕達もそれぞれリリムちゃんに向き直る。

「え~、たしかリリムの目的について話題が切り替わるところでしたね……。結論から申し上げますと、リリムの目的はマモルさん達を見守ることです」

「ぼく達を……」

「見守ること……?」

 ゆずはさん達がそれぞれ首をかしげる中、同じ仕草をしていない僕へとリリムちゃんは視線を向ける。

「この内容を聞いて一番納得しているのは、おそらくマモルさんではないでしょうか……」

 リリムちゃんの言葉でここにいるみんなの視線も僕へと集中した。

「マモルさん、伝えても、構いませんか……?」

「ど、どういうことよ? 箕崎真衛……」

 リシアちゃんの問い、ゆずはさん達の視線に答える意味も含めて、僕は頷く。

「……わかりました。皆さん、心の準備を整えて聞いてください。マモルさんは――マモルさんには、心を読む力が備わっているのです」

「「「「「!!???」」」」」

 予想できたことでもあったけれど、表情から察するにゆずはさん達に与えた衝撃は相当なものだったらしい。円香さんも行動には移さないけれど、おそらく驚いているとは思う。

「真衛さん……」

「お兄ちゃん、ほんとう……?」

「……ごめん、リリムちゃんの存在が無かったらあまりにも突拍子が無さ過ぎる気がして、今日までタイミングが見つからなかったから……」

「……これはリリムが最後にお話しする力の仕組みのことも交えてお話ししましょう。とりあえずリリムの目的をまとめると、マモルさんに大きな変化が起こらないかの経過観察。こちらの世界由来の現象にマモルさん自身や周りの人達が振り回されたりしていないかなどを、今までの間ずっと見てきましたです」

 リリムちゃんがそう話し終えた後も、僕の部屋には驚愕の余韻が残っていた。呑み込むのに少し時間が必要だと察したのか、リリムちゃんはカップアイスのふたを開ける。

「――アイス、食べないと溶けちゃいますね。頂きますです……」

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