第126話 僕達と子猫で違うのは

 「え~っと、まずどういったところから説明しましょうか……」

 意気込んで座り直したリリムちゃんだけど、どうやら説明する内容が多すぎるようで、整理するためなのか視線を彷徨わせてしまう。

「とりあえず、あなたがどういう存在なのか、あなた自身の目的、そしてどういった仕組みで私達を助けたのか。そこらへんが聞きたいわね~」

 円香さんがまとめてくれたので、リリムちゃんの視線はすぐに円香さんへと定まった。

「っ、ありがとうございます。ではまず、リリムはこれまでの経緯を見ての通り人間でもなければ、この世界の生物でもありません。今はこの姿をかたどっていますけど、本来は不定形なのです」

「ふて~けい?」

「定まった形を持たないってことだね……」

「別世界の存在、か……」

 真実の疑問にこのみちゃんが答え、僕も頭の中で思考を巡らせてみる。

「ふ~ん……だから子猫になったりこうやって女の子になったりできるの?」

「はい。簡単に説明すると、読み取った子猫や人間の基礎情報を元に、コピーしたものを多少変化させて同一の個体にならないよう工夫しているのです」

「ほへ~、何か完璧には理解できないけど、すごいんだね~」

 真実が関心を示す中、リシアちゃんはどこか納得していないような難しい表情をしていた。

「ちょっとちょっと、何普通に受け入れて話進めてるのよっ! この世界の生き物じゃないとか、姿を変化出来るとか、そんな突拍子もないことはいそうですかって即座に信じられないわよっ! そうよねルリトっ! 私がおかしいんじゃないわよねっ!?」

「そ、そうですね……すぐには呑み込めないといいますか、ただただ驚くことしか出来てません……」

 リシアちゃん達の焦りや戸惑いに、僕を含めたゆずはさん達は共感の苦笑いを返していく。

「あはは……ぼく達はもうリリムちゃんの現実離れした能力をこの目で見てるから、逆にこの世界の現象ですって言われた方が納得できないっていうか……」

 真実の意見はルリトちゃんとリシアちゃん以外がおそらく共通で持ち合わせていたものだろうけど、僕にはそれに加えてリリムちゃんの言葉を受け入れる根拠がもう一つ残っていて――


 【今は説明する時間がありませんけど、でもきっと、そのうちわかってくると思います】


 あの時リリムちゃんから残された言葉を僕は思い出していた。ここから推測すれば、たぶん僕がずっと自覚してきた普通の人とは違う変化にリリムちゃんは関係があって、理解しているということ。そしてそれをある程度説明する時間が、今この時なのだろう。

「ええっと、ルリトさんやリシアさんにはにわかに信じがたい話かもしれませんけど、今はお話を戻させてください。とりあえず、今の状態では外側も内部も皆さんと変わりありませんが、生命活動に関しては皆さんの機能と全く同じ動きをしているだけのダミーなのです。ですから人間のような三大欲求などは存在しませんし、本来は皆さんのような栄養摂取も必要ありません」

「うう~ん……仮にあなたの存在を信じるとしても、なんか頭痛くなってきたわ……。栄養を取らなくても別に構わないってのはわかったけど、三大欲求ってなによ?」

「えっと……人間の根本をつかさどる三つの欲求だと聞いています。食欲、食べたい飲みたいということですね。睡眠欲、眠りたくなるということなのです。あとは――っ、そのっ、しっ、しらべてくださいっ!!」

「? なによ、忘れたの?」

「ま、まあかみ砕いた説明として食欲を例に出すと、おいしいからといった理性で食べたいと思うことはありますが、お腹が空きすぎて本能的に何でも食べたくなるということは無いわけなのです。こほん、リリム自身についてはこんなところでよろしいでしょうか」

 話の一区切りがついたところで頷く僕達の一人であるゆずはさんがタイミングを計ったかのように立ち上がる。どうやらみんなの分の飲み物を持ってきてくれるみたい。少し緩んだ空気と共にリリムちゃんはゆずはさんにお礼を言い、「ふう」

と小さく息を吐くと込めていた身体の力を抜いたようだった。

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