第124話 理解が追いつかなくても説明を求められる僕
崩れてきたもののいくつかが僕の頭上や身体に降ってきたけれど、目の前にある非日常な光景を考えればそんなことはあまり気にしていられなかった。ただどちらかといえば元凶である女の子のほうが慌てふためいた様子で、僕以上にオーバーなリアクションを示している。
「あうう~ここに来て結構長い時間を過ごしていましたし、かんっぜんに油断していましたのです~。この姿で眠りこけてしまうなんて、あたまをポカポカ叩いても悔やみきれないです~っ!」
よく見ると何故だか彼女に初めてあった気がしない。とりあえず今のところは無害そうな独り言を呟く女の子と対話を試みようとしてみた。
「あの――」
「はっ! それよりすぐ側にマモルさんがいたということは、つまり香りを堪能していたのが把握されているということであって――!」
「えっと――」
「それどころかだらしなくてよだれの付いていたかもしれない寝顔をその持っているスマートフォンでドアップを含めた360度色々なアングルから写真に収められたり、恥ずかしい寝言を録音されたり、開いた口の中その他いろいろな部分まで保存され知り尽くされてしまったのではっ――! いえマモルさんに限ってそんなこと――でも、もしかしたらってことも――」
「いや――」
「お願いですマモルさんっ! もし恥ずかしい弱みを手に入れたのであれば、消去してくれませんですかっ!? そのためならその……な、なんでもしますっ!」
「その、話を――」
「あっ、なんでもするっていうのはマモルさんが信頼を積み重ねてるから言えるのであって、辱めたりいやらしい欲求を満たしたり悪いコトとかは――」
「…………」
まくしたてる女の子の話に置いていかれつつも、どうやら僕のことを知っているということくらいは何とか読み取れた、そんな時――、
「お兄ちゃんどうしたのっ!? 入るよっ!」
「真衛君っ!?」
「扉を開けたら着替え中という展開が待ってても構わないわよ~?」
女の子の叫び声や騒ぎを聞きつけてゆずはさん達が駆けつけてくれたらしい。扉を開けたみんなが状況を把握する沈黙が少しの間流れる。
「……あんた、何してんの……?」
ゆずはさん達が来た直後には一瞬ほっとしたというか、どこかしらこの現状が好転する救いの手を期待してしまっていた。
(あれ……?)
しかしリシアちゃんの第一声により嫌な予感が僕の中で漂い始める。よくよく考えてみれば、ここは僕の部屋で自分のベッドには少し涙目な女の子。これはもしかしなくても僕が連れ込んだとかそういった悪い方向性の想像を働かされても文句が言えない光景なんじゃ――。そんな怖れを抱えている中で極めつけに、
「やっぱりキョーハク材料を持ってる状態ではただの純粋なお願いじゃ聞き入れてくれるわけありませんよね……」
「!!?!?」
などと女の子が発してくれたものだから僕の恐怖はピークに達した。
「ちょっ、キョーハクって! あんた本当なのっ!?」
怒りと共に僕を疑ってかかるリシアちゃん、不安そうな顔で心情を表すゆずはさん、ルリトちゃん、真実。円香さんだけがにやにやした表情を見せながら頑張ってとでも表すかのようなジェスチャーを最後尾で送っている。見方を変えれば信頼の証なのかもしれないけど、どうしても素直に喜べない。
「……私も結構真衛君と過ごしてきたから、もう見たままを鵜呑みにするようなことはしないよ。慣れかけてきちゃってるのがこわいけど……」
「こ、このみちゃん……」
「でもっ! どういう理由でこうなったのか説明は必要だよね、真衛くん……?」
「う、うん……」
そんな風につとめて平静を保つこのみちゃんも、心中穏やかではなさそうだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます