第118話 彼女の追及は容赦ない

 「それで、お屋敷のカラオケルームを使用するために結局戻ってきてしまったと」

 事情を聞いた和葉さんが内容をまとめてくれたので、僕達はそのままお屋敷内部へと案内されていく。「お店のよりもしかしたら不便かもしれませんけど……」というのがルリトちゃんの台詞だけど、それが謙遜という言葉で簡単に吹き飛ばせるほど豪華でしっかりした部屋が二部屋用意されていた。座る場所の柔らかさからしてこだわりが見え隠れしている。光景に辺りを見回す僕とリシアちゃん、普段通りのゆずはさん達と二種類に分かれる反応。円香さんもここを見るのは初めてだと思うけど、僕達と違って物珍し気なリアクションは起こさない。

「それではお飲み物をご用意いたしますので、今しばらくお待ちください」

「――それで、どうしよっか。ぼく達だけで来てたときは一部屋あれば十分だったけど……」

「人数も倍くらいになってるし、マイクが回りにくいから二部屋使わせてもらえばいいんじゃないの? 場所決めはくじ引きとか、公平な手段なら何でもいいでしょ」

 円香さんの提案にみんなが賛成する形で無作為にどちらの部屋を使うか決められた――はずだったんだけど……

「……そ、それじゃあ、僕達も歌い始めよっか……」

「は、はい……」

「そ、そうですね……」

「……えっと、誰か最初に歌いたい人とか……いるかな……?」

「…………」

「…………」

「……意見を主張してくれる人、だれかいれば良かったね……」

 バランスというものは大事なようで、僕の呟きに一緒の部屋で歌うことになったゆずはさんとルリトちゃんは、ただただ苦笑いを返すしかなかったみたい……。


            〇 〇 〇


 やはりというか、場所決めは歌い始めてから時間が過ぎる度に形骸化していった。途中で僕達がここにいることを聞きつけたのか優愛ちゃんやその他メイドさん達が乱入し一緒に盛り上がった後和葉さんにサボりとしてひきずられていったりといったハプニングも起こったけれど、カラオケの中盤に相応しいような楽しい時間が過ごせている。

 リシアちゃんは紫色の飲み物をワイングラスで楽しみながら僕に話しかけていた。まあその話しかけ方を見れば絡むといった表現の方が正しいのかもしれない……。ちなみに飲んでいるのはグレープジュースなのだけど、ワイングラスで飲むリシアちゃんなりの理由があるはずなので突っ込まないでおくことにしようと思う。

「さあ白状しちゃいなさいよ箕崎真衛、私が疑う理由は全て話したわ。ゆずはや円香のおっぱいを毎日楽しんでるんでしょ? 真実のとかも合わせてもみ比べしてるんでしょ?」

 僕は当然手と首を全力で横に振りながら否定した。その必死さが怪しいとばかりにリシアちゃんの視線が余計鋭くなるけれど、本当に事実無根なので認められるはずがない。リシアちゃんが勘違いする原因を作ったであろう円香さんはずっとにやにやしながら行く末を見守ってるし。

「あはは……さすがにされたことないかな~」

 話に加わってくれた真実のフォローが無ければそのままずっと疑惑の目を向けられ続けていたのだろう。

「ふ~ん……でもあんた達ってその……一緒にお、お風呂とかは入ってるんじゃないの? どんな関係なのよいったい……」

「っ、どんな関係って……う~ん……」

 真実はリシアちゃんの恥じらいが残る言葉を聞いて一瞬戸惑いつつも、少しの間僕の方を向いた後、

「円香さんもお兄ちゃんもぼく達姉妹の生活にもう溶け込んでるし、こうしてぼくのお兄ちゃんでいることも認めてくれてるから、その、家族……みたいな感じかな?」

 ちょっぴり照れを混じらせつつ答えてすぐ確認するかのようにもう一度こっちを見た真実の意図を無下にする必要もなかったので微笑みを返す僕。

「家族だからって一緒にお風呂って……。その、異性なんだし……スキンシップみたいなのとかあるんでしょ?」

「えへへ……ひ・み・つっ」

 思いっきりいろいろ含ませた真実の答え方。実際リシアちゃんが期待しているようなことはたぶん何もないわけなのだけれど、僕は苦笑いに表情を変化させるだけに留めておく。

「っ、ご想像にお任せしますってこと? はあ……なら、最後にこれだけ確かめさせなさい箕崎真衛。あんたがゆずは達の胸をもみ比べてないっていうなら――」

 しかしそう言ってリシアちゃんが放った一言は、僕の苦笑いを凍り付かせるものだった。


      「ぶっちゃけどんな胸のサイズが好きなのよ?」

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