第117話 固まる二人の目先には

 「っ――!」

「っっ――!」

 二人が固まっていた時間はそれほど長かったわけじゃない。だけど硬直が解けた瞬間から激しく動揺しだすルリトちゃんとリシアちゃん。

「なっ、あっ、あんたっ、つ、ついにゆずはへあ、あかちゃ――宿らせ……っ!」

「っ、あっ、そ、その……っ おっ、おめでとうございましゅっ!」

「……???」

 ゆずはさんと顔を見合わせる僕はルリトちゃん達が動揺する意図をすぐには把握出来ず疑問符を浮かべる。このみちゃんと真実も僕と似た表情をしている中で、円香さんだけがくすくす笑っていた。直後にゆずはさんのお腹部分がもぞもぞと動き出す。

「!」

「!?」

「――にゃ~っ」

「っ――え?」

「っ、ね……ねこ?」

 今までずっとゆずはさんの服の中にもぐりこんでいたリリムが、ゆっくり外へと這い出てきたのだった。


            〇 〇 〇


「ふふふっ、前に顔を合わせてからひと月も経ってないのに、そんなすぐ目に見えてお腹が大きくなるわけないでしょ?」

「しっ、仕方ないじゃないっ! 目の前の光景にインパクトがありすぎたんだから……あ、あんた達の距離が近すぎるのも誤解の元なのよっ! まぎらわしすぎるわっ!」

「れ、れいせいにあたまを働かせられませんでした……はふぅ」

 まだ顔が火照り気味のルリトちゃん。リシアちゃんにも文句を言われるが、普段同じ家の中で暮らしているのでこれくらいの物理的距離になることは珍しくないのだけれど……。まあ初めて出会った頃を思い出してみると慣れというものの怖ろしさを改めて実感してしまうのかもしれない。表情に恥じらいを残すゆずはさんが口を開いて説明し始める。

「前までは膝の上に乗るだけだったのですけれど、最近は私に慣れてきたのか服の中にまで潜り込むようになりまして……。なのでその……私と真衛さんに何か特別な事情があるというわけではないんです……」

 苦笑いと共に説明を終えた後、ゆずはさんは僕に同意を求めるかのような眉を下げた視線を送ってきていて。僕もそれに頬をかきながら苦笑いという形で答える。

「誤解されても構わないって感じよね~二人とも」

「っ! えっ、えっと、別に僕はあえて嫌がるほどのことでも……。ゆずはさんには、いつも助けてもらってますし……」

「わ、私も、真衛さんに救ってもらったお礼に少しでもなればというだけで……」

「……」

「…………」

「……あ~、えっと、玄関先で聞いたけど、ルリトちゃん達今日は遊びに来てくれたんだよね?」

 円香さんのからかいに反応して少々無言になってしまった時間を真実が断ち切ってくれたのは、僕に対してこのみちゃんからジトっとした視線が突き刺さっていたことを考えるとありがたいのだと思う。

「そうよっ、じゃくて――じゃなくてっ、う~ん、まあ単純に暇だったからあんた達も暇してないかと思って来てみたってわけっ」

「一応真実ちゃんには連絡をいれたんですけど、返信が無いまま水島家についちゃいまして……」

「あはは……部屋にスマホ置きっぱなしにしてたから……」

 どうやら真実が携帯を置き忘れてしまったせいでルリトちゃん達の用件が僕達に伝わらなかったようだ。

「僕の部屋でもよく真実のスマホ、見かけるね……」

「い、いいでしょ無くさなかったら家のどこに置いたってっ。ぼっ、ぼくのスマホのことより、今は何して遊ぶか考えようよっ」

 話をそらされた気もするけれど、確かに真実の言うことも一理あるので僕達は遊ぶ内容を考え始める。円香さんだけは特に自分の案を主張する気が無いようで、そういった仕草も見せず目を閉じて寝転がりながら側に座るリリムを優しく撫でていた。

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