第116話 見ていて疑問に思うコト
水島家が平和なのはいつもの日常である。たまに円香さんが何かネタを見つけては僕達を恥ずかしがらせてきたりするけれど、さすがに平和な時間を超えるということは無いわけで。居間にいる僕は思い思いの時間を過ごすゆずはさん達が部屋に揃ったのを見計らい、ふと普段のみんなを見ていて考えたことを尋ねてみた。
「ゆずはさん達、姉妹喧嘩したことってあるんですか……?」
いつも仲良しの三つ子であるゆずはさん達にはあまり似合わない言葉だけど、出会ってから一度も見たことが無い故に気になる他愛もない話題。三姉妹の反応はといえば、ゆずはさんが返してくれた表情には不自然な部分など見つからず、座っていたこのみちゃんは僕から目をそらしたことが窺える。真っ先に言葉を発したのは真実だった。
「あるよ~。といっても小さい頃にまでさかのぼっちゃうけどね。よくお姉ちゃんにぼくの分のアイスやプリン食べられて,,泣かされてたんだ~」
「ちょっ、真実っ――!」
「その後はいつもゆずはお姉ちゃんが自分の分を渡して泣き止ませてくれてたっけな~」
「もう……そのことは何回も謝ったでしょ……?」
「心のきずは話題にするくらいには消えずに残るものなんだよ。胸にきざめーお姉ちゃんっ、にぇへへっ。でもねお兄ちゃん。ぼくが自分の部屋でゆずはお姉ちゃんからもらったアイスやプリンを涙ぐみながら食べた後しばらく過ごしてるとね、コンコンってドアをノックする音が聞こえるんだ。ぼくがドアを開けるとそこには誰もいないんだけど、目の前に新品のプリンや袋入りのアイスが置いてあるの。急いで誰かがお姉ちゃんの部屋に入っていくのもわかるしさ。きっとわざわざ近くで買ってきてくれてたんだよね」
「…………」
「結局ぼくはもう食べてるし、最後には二人でゆずはお姉ちゃんのところに行って、そのプリンやアイスを渡してたっておはなしっ」
「ふ~ん、結構悪くない話に聞こえるわよ? このみちゃん」
僕が円香さんと一緒にこのみちゃんへ視線を向けるとさらに頬を染めテーブルの上で組んだ腕の中に顔を半分ほどうずめるこのみちゃん。
「見ないでよ真衛君……死にたくなるから……。円香さんもっ!」
「あら、黒歴史扱いなの? ツンデレこのみちゃんっ」
「そうそう、その時は謝る言葉も言われたことなかったし、お姉ちゃんはつんでれなんだよ」
「っっ……///」
ますます赤くなるこのみちゃんを見ていたゆずはさんもくすりと微笑んだ後、自分の身体には不釣り合いなほど大きくなってしまったお腹部分を服の上からゆっくりと撫でていた。
「まあ今は特にこれといって問題が無いけど、もしかしてここに入ってきた異性である箕崎君が火種になったりすることもあるのかしら? 例えば特定の女の子だけを優遇して特別なことしちゃったりとか……」
「そんな……からかわないでくださいよ円香さん……」
「ふふっ」
円香さんにそう言われつつ、ゆずはさんの側に寄り添った僕はゆずはさんのお腹部分を一緒にさすりながら微笑み合う。水島家の呼び鈴が鳴ったのは、ちょうどそんな風に穏やかな雰囲気が漂っている時だった。
やはりゆずはさんは動きにくい状態なので、真実が立ち上がり応対するらしい。少し経って聞こえてくる会話から、どうやらルリトちゃんとリシアちゃんが訪ねてきたようだ。リシアちゃんがまた怒っていないか一瞬不安がよぎったけれど、今回はルリトちゃんもいるみたいだし、真実が話す声の様子からして安心できそうである。真実の案内で居間へと通されたルリトちゃんとリシアちゃん。立っている二人を見上げながらゆずはさんの大きくなったお腹部分に触れる僕達を見た瞬間、彼女達は完全に硬直してしまった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます