第114話 つぐなう意思はあるけれど
「箕崎く~ん? そろそろ準備いいかしら~?」
呼びかける円香さんの声にビクッと身体を反応させた僕は、おそるおそる扉の隙間から顔だけ出して円香さん達がいる僕の部屋をのぞき込む。
「……ま、円香さん、その、ほんとにこれ――」
「今更何言ってるの。これは箕崎君の贖罪なんだから、覚悟を決めるまで多少時間くらいあげても構わないけど逃がしはしないわよ?」
「うぅ……」
円香さん以外は疑問符を浮かべるような表情をしている様子なので、僕の状況はまだ把握していないらしい。恥ずかしさはいつまで経っても消えないけれど、このままここにいても円香さんのにやにやする時間が増えるだけなので僕は意を決して――決しきれないけれどゆっくりとみんなの前に姿を現した。
「っ、ま、真衛さん……」
「ふふっ」
みんなの驚いた表情が視界に映り、僕はぎゅっと目を閉じる。僕は円香さんから用意されていたふわふわの装飾が施された服、透けたヒラヒラの布がたくさんついているスカート、ファンシーな髪留めまで身に纏い、要するに女の子の格好をさせられていたのだ。
「わ~っ、か~わいい~っ!!」
「…………」
「ふむ……恥ずかしさへの償いは辱めで――ってことね。私から見ても似合いすぎてるのがなんかちょっと悔しいけど、まあ納得は出来たわ。やるじゃない」
「こちらこそ感謝してるわ~。箕崎君にそのまま勧めても断られやすかったし、どうしたらいいかなってずっと考えてたの」
真実は興味津々な表情を隠さずに僕の周りをぐるぐる周回しながら全体を把握しようとしているし、このみちゃんも何も言わないけど視線が動き続けていてしっかり観察されている。リシアちゃんは円香さんと利害の一致が発生していた。
「箕崎くんっ、ごかんそうは?」
「うう……も、もう十分じゃないですか……。は、早く着替えさせてください……。スカートなので下部分が全部開いてるから落ち着かないんです……」
「あら、そ~んな上目づかいで私の支配欲をゾクゾクッと掻き立てるセリフ言われちゃったら、簡単に開放する気も起きなくなっちゃうわね~。それに女の子はスカートの時普段からずっとその状態なのよ? 一応女の子用の下着も用意しておいたはずだから、箕崎君がちゃ~んとはいてくれたか確認しないとっ」
上目づかいなのは恥ずかしくて俯いている状態から円香さんを見上げたからという理由を述べる時間も与えられず、僕は円香さんにスカートをめくられそうになる。
「やっ、やめてください……っ! 見えない部分はどちらでもかまわないじゃないですか……っ」
屈んで下からものぞき込もうとするので僕はスカートのすそを押さえながら太ももを床につけて座り、抵抗の姿勢を見せた。
「興味あるのにてっぺきね~。まあいいわ、どっちをはいてるかわからないシュレディンガー状態もそれはそれでそそるものがあるし」
「こ、これ以上僕も円香さん達もすることないですよね……?」
「いいえ、まだよ」
「っ!?」
「目に焼き付けておくだけなんてもったいなさすぎるじゃない。だから記録としても鮮明にしっかり残しておかないと」
「そ、そんな――っ!」
「何驚いてるのかしら? そもそも被害者の一人であるルリトちゃんにはまだその恰好見せてないじゃない。持ち帰るためにも記録には残さないといけないわよねぇ? リシアちゃんっ」
「っ、そ、そうねっ。私としたことが忘れかけてたわ。さあ箕崎真衛っ、もっとその女顔をこっちに晒しなさいっ!」
円香さん達の言葉と共に響き渡るシャッター音。その中に撮る回数は少ないけどこのみちゃんと真実も混じっている。
「わ、私だってちょっとくらいおいしい思いしてもいいでしょっ。真衛君にスカートの中覗かれて匂い把握されてそれをずっと思い出されてるんだからっ!」
「に、匂いなんて届く距離じゃなかっ――」
「このみちゃん、今箕崎君は届いてたら嗅いでたって白状したのよっ」
「っ! ちっ、違いますぅっ!」
「ごめんねお兄ちゃん。ぼくも今の光景、忘れたりしたくないし……」
恥ずかしさに耐えつつしばらく撮られ続けていると、また一つ別種類のシャッター音が一度だけ聞こえた。
「ご、ごめんなさい真衛さん……! その……私だけ記憶を頼りにするのはどうしても……」
「ゆ、ゆずはさんまで……」
元からだったのかもしれないけれど、罪を背負う僕の味方だと期待できる人は誰もいなくなってしまう。
「ううぅ……もう、やめてください……」
「ふふふっ、いいわいいわ~、箕崎君が恥じらえば恥じらうほど女の子らしさがましましよ~。拡大してみることも可能な写真が一生残ることを自覚しながら映され続けてね、箕崎くんっ」
こうして僕は散々写真を残され続け、終いには円香さんに映像まで撮られてしまう羽目となってしまった。後日ゆずはさんに目線で、真実に直接別の衣装を期待され、このみちゃんからは『間近だったら匂いも嗅いでたんでしょ』と言われて去り際に振り向かれつつジト目で頬を染めながら『……ヘンタイ』と罵られる始末。ため息をつきながら僕は藍方院家を訪れる。写真がルリトちゃんにどう伝わったのか不安になったから。
「ようこそ真衛さん。お待ちしておりました」
いつもと変わらないルリトちゃんにほっと胸をなでおろし小型テーブルの側に座る。この態度からもしかしたら写真が伝わっていないのかもしれないと淡い期待を抱いたのだけれど――
「えっと、リシアちゃんから届いたこの写真なんですけど、とってもかわいらしくて……。いいんですか? もらってしまっても……」
予想していたとはいえ嬉々としたルリトちゃんの言葉を聞いた直後、僕は腕を枕にして小型テーブルの上に突っ伏した。
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