第113話 僕のぬぐえない罪事情
「みぃ~がぁ~さぁ~きぃ~まぁ~もぉ~るぅ~~!!」
真実のゆずはさん手作りクッキーを食べる音だけが耳に届く平和な時間、それを途切れさせたのは外から響き渡る女の子の声だった。
「……すごい、怒ってるみたいだよ? リシアちゃん……」
「う、うん……」
聞き覚えのあるその声に真実が僕を向きながら理由を確かめようとする。しかし頑張って考える僕にも心当たりが存在しない。あの怒声を聞いた後で玄関に姿を現すのは正直抵抗があるけれど、かといって居留守を使うわけにもいかないし、たとえ僕がいなくても諦めてくれそうな雰囲気じゃない。顔を見合わせるゆずはさんとこのみちゃん、そして真実と一緒に僕はおそるおそる玄関へと向かう。
「リ、リシアちゃん……えっと、今日はどうしたの――」
「箕崎真衛はっ!?」
扉を開けてくれた真実の言葉を遮るように僕の居場所を尋ねるリシアちゃん。開けた扉の隙間から僕の姿を見つけると、真実の間をすり抜けて玄関に入ってきた。
「箕崎真衛っ! 身に覚えが無いとは言わせないわよっ!! ルリトの……ルリトのおしりを撫でまわして、もみしだいて、匂いまで確かめたんでしょう!!?」
「!!???」
リシアちゃんの発言に大混乱する僕でも、ゆずはさんが口をおさえ、このみちゃんの目が僕に対して鋭くなったことは把握出来た。同じように驚いたであろう真実が理由を尋ねようとする。
「え……えっと、それっていつのはなし……なのかな」
「っ、いつかはよく知らないけどっ、確かルリトが助けられた時とかなんとか言ってたような気がするわっ! どさくさに紛れて……最低ねこのヘンセク男っ!!」
確信したかように力強く僕を指差したリシアちゃんとは対称的に、その言葉によって僕達の表情は緩みかけていた。リシアちゃんの発言とは結構かけ離れているような気がするけれど、思い当たる出来事が一つだけ浮かんでくる。それはその騒動を経験し内容を理解しているゆずはさん達も同じようで、このみちゃんの鋭い視線もいつの間にか消えていた。顔を見合わせ頷く僕達の中で、『もしかして……』と形容出来るかのような空気が漂い出す。
「あ~、えっとねリシアちゃん。どういうふうに伝わっちゃったのかわからないけど、それってたぶん――」
「確かにそんな変態セクハラ箕崎君に怒るのも無理ないわリシアちゃん」
真実の言葉は再び遮られ、突然ここには姿を見せていない人の声が木霊する。声の主である女性もゆずはさん達から起きた出来事の事情を話されているはずなのだけれど、そこはかとなくややこしくなりそうな気がするのは僕の気のせいなのだろうか。服が変わっていることから考えるとどうやら際どい恰好から着替えてきたらしい。そしてヘンセクが一体どういう意味なのかという疑問もとりあえず解消した。
「円香さん……」
「リシアちゃんが言ったほどではないにしろ、ルリトちゃんのお尻を触っちゃったこと自体は事実。そうでしょ箕崎君?」
「っ、そ、それは……」
「その他にも箕崎君はこのみちゃんのスカートの中を覗いて目に焼き付けたあげくその下着のシワ一つひとつ、色や形状繊維一片いっぺんのすみずみまで鮮明に何回も思い出したり、ゆずはちゃんのおっぱいの感触には反応するのに真実ちゃんのには反応を示さないで精神的苦痛を与えたり、私を押し倒してその身体を思う存分堪能したり罪は数えきれないし」
「っ!? ルリトだけじゃ飽き足らず、まだそんなにっ……!」
「まっ、真衛君っ!! 私の下着でそっ、そんなことまで考えてたのっ!??」
「せいしんてきくつう……う~ん……そう言われれば、そう……なのかな……」
「ちっちがっ――少なくても最後のは完全に濡れ衣じゃないですかっ!!」
「それに私や特にゆずはちゃんの服の上からでも形とラインとその大きさがまる分かりなたわわに実ったおっぱいだってタダじゃないのよ」
「ひゃ……!? や、やめ……っ……て、くださいっ……まど……か……さんっ……」
円香さんはゆずはさんの後ろから胸をわしづかみにして弄ぶ。行動だけ見れば円香さんの方がものすごくえっちなのにほとんど何も言われないので、それほど異性の壁というものは厚いみたいである。
「はあ~この手にのしかかるやわらかさとじゅうりょうかんっ……。私以上にたゆんたゆんなのに許されちゃうのかしら?」
「っ……の、のぞ……んだ……わけでは……っ……。ちいさい……ほう……がっ……」
「ふふっ、もうこれ以上必要ないのにって意思に反してどんどん大きく蓄えちゃったゆずはちゃんが可愛くてもっと触っていたくなっちゃうけど、話を戻すわ。これだけ罪深い箕崎君に何にも因果応報が返ってこないっていうのは、リシアちゃんも納得できないでしょ?」
「っ……何か方法があるみたいな言い方じゃない。どうするっていうの? 物じゃないから元に戻せないわよ?」
「ウフフフフフフ……」
怪しげな笑みを浮かべる円香さん。もしかしたらこれからも僕は、これらの出来事を一生ぬぐえない罪として蒸し返され続けるのかもしれない……。
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