第112話 あいつの消えないヘンセク疑惑

「ルっリっト~♪」

「リシアちゃん、その……紅茶が飲みにくいですよ……」

 今日も今日とて私はルリトの隣にいる。ルリトのお部屋、小さな丸テーブルの側で腰を下ろして一緒に同じ本を読みながら優雅なティータイムってところかしら。

「リシア様は本当にお嬢様から離れないんですね~」

 メイド長――和葉がそんな呟きを漏らしながら私の分も紅茶を淹れてくれてるの。

「当然よ、悲しき運命か神様の悪戯としか思えないけど、私達は学年も違えば学校だって別々なんだもの。ああ……もし私があと一年遅く生まれていたら、ルリトとおんなじクラスに通えてたかもしれないのに……」

「ふふっ、そんな簡単なお話ではないと思いますよ? 今までの環境だって全てがらりと変わってしまう訳ですから。お嬢様も学園で抱きつかれ慣れているとはいえ、再びその時間が増えてしまったようですね」

「は、はい……慣れたかったわけでは、ないんですけど……」

 聞いた話によると、ルリトの通う学園では小動物のように可愛がられているらしい。やっぱりルリトは大人気なのね……。余計にスキンシップを取りたい気持ちがつのっちゃう。

「だからせめて学校の時間以外ではルリトの温もりを感じていたいのっ」

「そうですか……。まあ今のうちに堪能しておいた方が良いかもしれませんわ。なにせお嬢様は、箕崎様の許嫁なのですから……」

 えっ――?

「っ!? かっ、和葉さんっ! 誤解を招くような言い方をしないで下さいっ……」

「あら、申し訳ありません。てっきり親密な関係を前提としているのかと……」

 頬を染め慌てふためきながら訂正するルリトを面白がっている和葉の様子から、彼女はわざとさっきのような発言を選んだのだろう。ルリトは私にも必死に弁明しようとする。まあ私だって事情を聞きたくてたまらないわ。

「ちっ、違いますよリシアちゃん、真衛さんとはその、おともだちとして、仲良くさせてもらっているだけですから……」

「そ、そうなの……? そう……。び、びっくりしちゃっ――」

「ですけど、もう既にお嬢様のえっちな――こほん、デリケートな部分を触られてしまったんですよね……? お嬢様の許可もなしに……。お嬢様はお優しいので、責任は追求していませんけど……」

 は……??

「かっ、かずはさんっ……!!」

「こちらはしっかりとした事実なはずですよ……?」

 突きつけられた驚愕の真実に頭の整理が追い付かない。まさか、そんな――

「どっ、どういうこと……!?」

「おっ、落ち着いてくださいリシアちゃん……」

「デリケートな部分って……どこを触られたのっ!? ルリト!!」

「っ、え、ええっと、その…………おしりを、少し……」

「っ――!!!」

「あ、あのですね、リシアちゃん――」

「ルリトの……」

「リシアちゃん……?」

「ルリトのスベスベかつ白桃のように綺麗で整った色と形、みずみずしさを併せ持ち触れた瞬間沈み込む指がその幸福度を最大限に伝えてくるほどやわらかいおしりを丹念に撫でまわし揉みしだいたなんてっ!! 私ですら一度も触れたことないのにっっ!!!」

「リ、リシアちゃん……えっと、そ、そこまでされてないと思いますし、憶測で自分の身体の一部分をそれほど具体的に形容されるのはちょっぴり複雑と言いますか、その――」

「待っててルリトっ、優しいルリトの代わりに私がはっきりと箕崎真衛に物申してあげるからっ! 人畜無害そうな仮面をかぶって、実は前にあいつのとこへ行った時から怪しいと思ってたのよっ! とんだヘンタイセクハラ野郎じゃないっ! ヘンセクよっ! ヘンセクっ!!」

「リ、リシアちゃんっ、わたしのお話を聞いてくださいっ。真衛さんはわたしを助けてくれた時に、偶然服の上からおしりを支えてしまっただけなんですっ。なので撫でまわされてもいませんし、もみしだかれてもいませんっ」

「っ……なるほどね……」

「リシアちゃん……」

「そんなにあいつをかばってあげるなんて……前から思ってたことだけど、ルリトが天使のように優しいことは今のでよ~く理解しなおしたわっ」

「リシアちゃん!??」

「待ってなさい箕崎真衛っ! 今日今まであなたの行ってきた悪行が白日の下に晒されるのよっ!!」

 私は目の前にある紅茶を一気に飲み干すと、ルリトの部屋を即座に飛び出した。

「…………」

「……若いって、いいですよね~」

「……和葉さん、それほど私達と離れていないと思いますよ……? あと、発端を作ろうとしないでもらえると嬉しいです……」

「そんなことありませんわ、もう青春自体は過ぎてしまっているんです。失った甘酸っぱさは戻ってきません。しかしお嬢様が嬉しくもそうおっしゃって頂けるのであれば言い直しましょうか。青春って、いいですよね~」

「は、はあ……」

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