第104話 裏方側での現状把握
リリムは藍方院家本館であるお屋敷の月明かりだけが差し込むお部屋にいます。別館での騒動から少し日にちが過ぎて、慌ただしかったリリムの周りもようやく落ち着きを取り戻してきたというところでしょうか。特にコノミさんやユズハさんが頭から出血するマモルさんのことをとても心配していたようで、当日はそわそわはらはらしているコノミさんと表情が変化しても眉を下げ続けているユズハさんしかリリムは見かけませんでした。とはいえ誰一人欠けることなく無事だったのは何よりですし、だからリリムはこうして静かに星を眺めていられるのです。
「っ……」
部屋に唯一ある扉が開く音に、リリムの他四人が気付き顔を向けました。ある程度の医療設備が整えられているたった今扉を開けたセリアさんを含めれば合計六人となったこの部屋で、上半身を起こしたままベッドを使用している女性が開口一番話し始めます。リリムもそうですけれど、六人と言いつつ人でない存在が混じっているのは気にしていません。
「セリアさんも来たことですし、そろそろ話し始めましょうか……」
「前置きなんて必要あるのかしら? すぐに話し始めても大丈夫じゃない私達なら」
「前置きが必要なほど私達との関係が離れてしまったのかもしれませんよ」
「はいはい、それこそもう少し関係が離れてたら効果のある言葉だったわ」
「紗愛璃様、本題をお願いします。それと何度も申し上げておりますが、私のことはどうかセリアと呼び捨てになさって下さい」
進んで話を脱線させようとしてくるマドカさんやそれに乗っかるカズハさんと違って、セリアさんはしっかり話を進めるつもりのようです。六人目であるサエリさんの介護用ロボットアイラちゃんはやることのほとんどを終え、簡単なベッドメイキングに取り掛かっていました。
「いいえ、あなたはもう私の人形ではないのですよ……? 初めから私達と等しく考え、自分で判断と行動が出来る存在ではありませんか……。もうそろそろやってくる頃ですが、私が必要なあの子達とは違うのです……」
サエリさんの言葉が終わった直後に再び扉が開き、何人かのメイドさんが部屋へと入ってきます。サエリさんの前に一人ずつ寄り添い、すぐほのかな光を放つ粒子状になってサエリさんの胸へと吸い込まれていくメイドさん達。彼女達はリリムやセリアさん、アイラちゃんと違って簡単な自我しか持ち合わせていませんが、本来不定形であるリリム達と根っこは同じ存在なのです。アイラちゃんもロボットである器を内部から操作しているためロボットが動いているように見える訳ですからね。
「ですが……」
「はいは~い、本題を進めようとしている本人が話を脱線させかけてるわよ」
「っ……失礼しました。しかし私は今でも紗愛璃様をお慕い申しております。このSERIAという名前を頂いたあの日から……」
「昔は何度も耳にした言葉ですが、久しぶりにあなたの口から聞きましたね……。自分の名前を組み替えただけの単純な理由なのが今では少し恥ずかしいくらいです……。話を戻しましょう、現状報告をお願いします……」
「今のところ、箕崎君達に問題は見受けられないわ」
「お嬢様との接触がスムーズに進んだことは紗愛璃様もご存知かとは思いますが、こちらも見ている限り関係性について気になる点は特にありませんわね」
「申し訳ありません、本来私達側との深い接触は必要ないはずですのに。報告としては期待以上かと思われます。確かな変化が私にも見て取れるので……」
「そうですか……。皆さんが優秀なのか台本の無い箕崎さん達が頑張っているのかはたまたその両方か、良い報告を聞けました……。忙しくここにいない方達には、私から伝えておきましょう……」
「強いて言えば今回のアクシデントで箕崎君達が怪我しちゃったことくらいだけど、むしろ後々を考えれば経験として必要な傷になるかもしれないわね」
「円香さん、本当は箕崎さんを残していきたくなかったのではありませんか……? 出来ることならずっと安全な選択をしてほしいと、そう思っているのでは……?」
「これからもっと危険なことをさせようとしている私達が都合の良い時だけ鳥籠の中から解放して勇気を出せだなんて言えないでしょ? あの気持ちも含めて私達には必要な要素なのだから」
マドカさんはあまり気にしていないような話し方ですが、その口調がすべてでないことをリリムを含め、ここにいる人達全員が知っています。
「さて、おそらく戸惑っている箕崎君のことを考えてもそろそろ頃合いね。リリムだけにはいずれ正体を明かしつつこちら側のことをかいつまんで説明してもらうわ」
急に話を振られてリリムは少し驚きましだが、趣旨を理解すると静かに頷きました。マモルさんのために、今回リリムは傷を癒せなかったのですから。平和になり静かな夜が更ける中、リリム達はマモルさん達を見守り試す段階を次へと進ませます。
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