第103話 平和が戻っていく中での疑似兄妹

 僕と真実はお屋敷の医務室へと運ばれ大きなベッドに身体を預けることとなった。本来はメイドさん達と別にあるルリトちゃん優先の個室だそうで、意識がしっかりしていた僕達は緊急性の無さを示し今のところ病院へ向かうのを遠慮している。病院程ではないけれど、ここでも十分に治療が受けられていた。

 和葉さんから聞いた話だと炎はすぐに燃え広がりを抑制出来たことで広範囲を燃やさず、ようやく鎮火出来たらしい。真夜中に起きた大騒動がこうして終息に近付きつつあるのだろう。

 そういえば突然発揮された僕の能力についても頭にひっかかりを覚える。あの時から今まで再び予期せぬ使用は起こっていないけれど、本来他の人が持ちえないはずである未知なるもの。今までは制御できただけで、よく考えればこれからの行く末については誰に聞くことすら出来ない。唯一関係ありそうな手掛かりといえば前にリリムから現れた女の子。、女の子は確かそう言っていたけれど、僕の現象に関わりがあるのだろうか。近い将来こういったことが起こると、理解していたのだろうか。流石に今これだけの情報では少なすぎるので考え始めても仕方ないのだけれど。

「お兄ちゃん、起きてる……?」

 隣で横になっていた真実が僕の服を掴んだので、僕は寝返りを打って反応を示した。目が慣れたのと月明かりのおかげで暗さの中でも真実の姿をちゃんと認識できている。

「どうしたの? 真実……」

「いや、その、なんていうか……これで、終わったんだよね? またいつもの生活に戻れるんだよね……?」

 さっきまでの慌ただしい出来事から解放され、こうして心を落ち着かせていられることに実感が追い付いていないのか、そんな確認と共に頬をかく真実。

「うん……そのはずだけど」

「そっか……。頭の傷、本当に平気なの?」

「結構出血してたけど、たぶん大丈夫。真実だってその足……」

「あはは、ぼくのはただの捻挫でちょっとひねっただけだよ。あの時は逃げられなくて危なかったけど、今なら時間が経てば治ると思うし。痛みが続くようなら病院行こうって感じかなっ」

 真実が僕の頭にあるガーゼで覆っている場所を心配そうに見つめたのと同じように僕も包帯で巻かれた真実の足に目を向ける。平気だという意思を表すためなのか、真実ははにかんだ顔も見せてくれた。

 僕も安心の意図を含んだ微笑みを返すと真実はさっきより強めに僕の袖を掴み、身体を寄せる。

「っ……真実?」

「もうね、こうやってお兄ちゃんのこと抱きしめられないって思ってた。リシアちゃんにも、言いたいこと伝えられないのかなって。誰にも話してないから遺言にもならないや」

「……良かったね、リシアちゃんも無事みたいだし」

「うんっ。でも今はとりあえず、いっぱいお兄ちゃんを堪能させて?」

 頬を擦りつつ表情を緩ませる真実に対して今度は苦笑いを浮かべるしかない。

「後ろはさっき十分楽しんだから、今度はまえをご所望だ~っ」

「ま、真実っ、あんまりその――」

「っ、だめ?」

「いや、ええっと、こ、こそばゆいっていうだけだから……別に僕で良かったら、いくらでも、構わないん、だけど……」

 その言葉を聞いた真実は再度頬ずりを再開させる。僕は苦笑いを崩さずに真実の気が済むまでそれを受け入れ続けていた。同時に僕へと伝わる真実の感触だって、煩わしく感じる部分などどこにも無いのだから。

「ふむっ、これからもこの感触を味わい続けなければっ。なんたって減らないんだもんねっ」

「あはは……」

「えへへっ、お兄ちゃんっ、だ~いすきっ!」

 再度抱きしめる腕に優しい圧力を込めた真実の幸せそうな顔がこの先も続くように、窓から見える星へちょっぴり願いを込めてみる。そんなことを頭に思い浮かべながらも、僕達の平和に戻りつつある夜は過ぎていった――。

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