第98話 避けることが出来た者達から、外側の景色

 私、優愛は外へ出るための自動ドアを潜り抜け、ようやく別館であるお屋敷から脱出することが出来ました。道のりはそれほど息の切れる距離ではありませんでしたけど、呼吸する速さに心臓の鼓動が比例してくれません。伝わる振動を感じつつ手で胸を押さえながら、私は背を向けているお屋敷へと振り向きます。

 お屋敷の一部分からは少しずつ外側に煙が漏れ出し始めていました。必要な場所への連絡などは和葉さんが伝えている本館メインシステムルームの人たちが済ませていると思いますので、顔が青ざめても私に出来るのは皆さんの無事を祈ることくらいなのでは……。原因を作ってしまったのに、自分が無力なことを痛感します――。

 少し経って、私の他にもちらほらと避難してくるメイドさん達が現れ始めました。近づいて安否を確認し、状況に取り乱さず原因を話題に出す余裕を持つようなメイドさんがいれば私が見た詳細を話して謝ります。幸せなことですが、そんな私を激しく非難するメイドさんは今のところいません。むしろ皆さん私自身を心配してくれて、いつも健気に頑張っているのを見ているからと言ってくれる人もいました。ひたむきにこのお仕事を続けてきたことが報われたというのは少しおかしな表現なのかもしれませんけれど、私の中に嬉しさがこみ上げてきます。

「姉さん大丈夫?」

「は、はい。何とか……」

「ゆずはさんっ! このみさんと円香さんもっ……!」

 正確には数えられませんがおそらく半分以上のメイドさん達が外に避難し終えた頃、このみさんに気遣われたゆずはさんと小さな子猫を抱えた円香さんも自動ドアから出てきました。

「優愛さんも、ご無事だったのですね……」

「はい。あの、三人だけなのですか……? 箕崎さんや真実さん、リシアさんは……?」

 ここへと最初に入ってきた時の人数を加味した私の質問に、このみさんは少し表情を沈ませながら答えます。

「真衛君は真実を助けにいってるし、リシアちゃんはお付きのメイドであるセリアさんって人が……」

「そうですか……。お嬢様も、まだ外には見当たらないんです……」

 メイド長である和葉さんが今外で見つけられないお嬢様をきっと探しているはずです。自動ドアの他にも非常口などから次々と外に増えていくメイドさん達の中で人数の確認や伝達が行われていますけど、私のルームメイトもまだ見つかっていません。お屋敷で誘導してくれているはずの上位メイドさん達と上手く合流出来ていることを願うばかりです……。

「やっぱりまだ、真実ちゃんはお屋敷の中にいるみたいね……」

 私と同じくある程度辺りを見回しながら円香さんは呟きます。

「真衛君……」

 真実さんが避難していればまだ中にいる箕崎さんと連絡を取るつもりだったのでしょうか、携帯電話を握りしめるこのみさんにゆずはさんがそっと寄り添いました。

「きっと大丈夫ですよ、真衛さんを信じましょう」

「まさかこんなことに巻き込まれるなんて。いったい何があったのかしら」

 円香さんが発したこの呟きには、返答しなければいけないと思います。

「それはたぶん、私のせいなんです……」

 顔を向けた円香さん達に私はメイドさん達に話したのと同じような詳細を語ります。

「そう……。とりあえず今は、被害が少しでも少なく済むこと、箕崎君達が無事に戻ってくることを祈るしかないのでしょうね」

「はい……」

 何も言わず眉を下げた表情のゆずはさん達にも私は消え入りそうな声と共に頷きます。消防車などの緊急車両はまだみたいです。着実に大きくなる炎や広がる煙を見ていることしか出来ないなんて。もどかしさだけが私の中で募っていきました――。

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