第92話 虚ろにさまようヤミ少女
「お嬢様……」
ルリトの後に訪ねてきたセリアはあまり言葉を発しない私を案じた表情をしてくれる。今の私の表情は瞳は、セリアにどう映っているのだろう。生き生きとした生気あるように映っていないことくらいはわかるけれど、自分の瞳や表情を自分では視認できないのでセリアの表情から推察するしかない。
「お嬢様……お嬢様にとってはたとえ空虚な励ましにしかならないとしても、これだけは、これだけは言わせて下さい」
「…………うん」
全然空虚じゃない。セリアの励ましは嬉しい。言ってもらいたい。そんなに謙遜しなくても良い。でも、私の口から出たのは頷く言葉だけ。ベッドに座る私にセリアは言葉を続けていく。
「私は、セリアはこれからもお嬢様のお側に仕え続けます。お嬢様は決して一人ではないことを、どうか覚えておいて頂けますと……」
「…………ありがと」
本当は発した感謝の言葉にもっと言葉を付け加え、自分の感じた嬉しさと伝える言葉とをすり合わせるべきなのだ。だけど今の私には、その気力が湧いてこない。
「……明日に響きます故少しでも睡眠をお取り下さい。失礼します」
「…………おやすみ」
セリアが出ていくと共に聞こえる扉が閉まる音。再び無音となった部屋で私はセリアの言葉を思い出す。そう、一人じゃないではないか、たとえルリトを失っても、箕崎真衛達とこれ以上距離を縮められなくても。今までもセリアにはたくさんお世話になったけれど、今回もセリアの言葉に励まされた。口元がほんの少しだけ上がったような気がする。私は、セリアに助けられたのだ。
ルリトにも感謝しなければならない。箕崎真衛達と上手くなじめない私を気にかけてくれて、優しく関わってくれて、付き添ってくれて。私の方から突き放してしまったけれど、最後まで私のことを考えてくれていた。私は、ルリトに助けられたのだ。
(アレ……?)
箕崎真衛に関してもそうだ。私の身勝手な思いを受け止めてくれて、私のことを怖がらずに接してくれた。私は、箕崎真衛に助けられたのだ。
(ワタシ……)
ゆずは達も、円香も私を許してくれて、接してくれて、助けられて――森下社長も、山口さんにも、みんなに助けられ、助けられ、助けられ、助けられ、助けられ、助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられ助けられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられたすけられタスケラレ――――。
(ワタシッテ、イッタイナンノタメニイキテルノカナ……)
セリアが去った後再び縦長の鏡に全身を映し出されている私はようやく鏡の方を向き、今の自分自身を確認する。光の宿っていない虚ろな瞳と無気力な表情が何も言わずこちらを見つめていた。
「ハハハ……アハハハ……」
私に合わせて目の前の虚像が乾いた笑いを浮かべている。幸せ者なのだ、私は。そしてなんて滑稽なのだろう。助けられている私は、助けられているばかりの私はすごく幸せ。だけど、私以外は? 私は何かしたのだろうか、与えたのだろうか。ゆずは達には無理までさせておいて、私自身は何も出来てない。そんな私は、果たして必要なのだろうか――。
「…………」
ゆっくりと立ち上がりうつむいたまま部屋の扉へと近づいていく。静寂が支配する深夜帯、眠っていない方が珍しいのかもしれないけれど、淡い期待と共に私は自分の問いに答えてくれるセリアを含めた『誰か』を求めてさまよいだした。
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