迷うぼくと私、救おうとするわたしと僕

第91話 悩みも出来事も火種から

「ん……」

 ぼくが目を開くと周りの状況がぼんやり視界に入ってくる。眩しくならないのは部屋の中がまだ真っ暗なせいで、ぼくはそこから時間帯がまだ深夜なのだと把握した。普段慣れ親しんだ寝床じゃないと早く起きちゃうってこともあるんだけど、やっぱりリシアちゃんのことが気掛かりで浅くしか眠れなかったのかもしれない。それでも目の前で静かな寝息を立てているお兄ちゃんの寝顔を見つめていると、自然にちょっぴり微笑むことが出来た。

「のど……かわいちゃった」

 呟きつつ布団から這い出るぼく。見渡すとぼくが本来眠るはずだった布団の他に円香さんの布団の中も空だったので、円香さんはまだ眠っていないかぼくと同じように目を覚ましたりしたのだろう。よく見るとリリムも見当たらないので円香さんが抱えていったのだと思う。楽しい夜を過ごすために買ってきてもらった炭酸飲料はまだ結構残っているけれど、今はもっと落ち着いたのど越しの飲み物が飲みたい。ここからは少し遠めにソファや自動販売機が設置されている休憩所のようなスペースがあったはずだから、そこで飲み物を買いながら今一度リシアちゃんに伝える言葉を考えよう。

「っ……」

 内側から部屋の扉を開けるとこちら側の暗さと対照的な電気がつけっぱなしになっている廊下の光が漏れてきて少し眩しさを感じ目を細めた。お兄ちゃん達を起こさないように扉の開け閉めまで気をつけながら、ぼくは長めの廊下を歩いていく。

 自動販売機にたどり着くと早速お金を入れてなるべく水に近い飲み物に対応するボタンを押した。時間のせいもあってぼくが動く音以外は無音の場所、取り出し口に落ちる飲み物の音がとても大きく響き渡りちょっぴり驚いてしまう。ソファに座ってペットボトルに口をつけると即座に水分がぼくの喉を潤してくれたけれど、やっぱり心に残る不安までは癒してくれなかった。


            〇 〇 〇


「ん、んん~っ!」

 私、優愛は地下室でようやくPCとにらめっこする時間を終えるところでした。時刻は完全に日をまたいでいますから、流石にそろそろ眠らないと和葉さんに叱られてしまいます。大きく伸びをした後PCを閉じる前に簡単なバックアップを取っておきましょう。特にデータ内容の変化が激しい時にはほとんど欠かしたことがありません。使っているPC自体もあまり新しいものではないので、正直いつ使えなくなってしまうかわからないのですから。

「っ……!」

 保存したデータをポケットに入れようとした時に誤って側にある飲みかけの水をこぼしてしまいました。急いでティッシュを散らかし気味に取り出しとりあえずPC周りの水はしみ込ませて事態の収拾を図ろうとしますけど、結構な量がこぼれてしまったので仕方なくタオルを持ってくるため一階へと向かいます。

「っ……和葉さん」

「優愛……」

 最後の見回りでもしていたのでしょうか、和葉さんにばったり出くわしてしまいました。私の名前を呟いた後の二言目は予想していた言葉です。

「まだ眠っていなかったのですか……? わかっているとは思いますが、夜更かしは身体に悪影響しかありませんよ。特に成長する時期には睡眠を大切にしませんと」

「ごっ、ごめんなさい。今から眠るつもりでしたのでっ」

「手に入ったパソコンで出来ることに夢中になる気持ちもわかりますけど、ほどほどに」

 和葉さんにそう念を押されぺこりと頭を下げた私は、なるべく音を立てず自分の部屋に置いてあるタオルを持って地下室へと戻ります。

「早く拭き取って眠りま――えっ……?」

 扉を開けて見た光景に一瞬理解が追い付かず呆然とし、思わずタオルを落としてしまいました――。

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