第89話 裏方達は時を待つ
リリムは円香さんと一緒にあまり人気のない非常口の扉付近へとたどり着きました。リリムを抱きかかえつつ壁に寄り掛かる円香さんに、浮かない表情のまま言葉を投げかけます。
「リシアさんとマモルさん達、順調に関係を築けていると思っていました……」
「正確に言うと関係自体は築けているのでしょうね。何事もなくとはいかなかっただけで。まあどこかしら仕方ない部分もあると思うわ。私達が見守ってきたのも箕崎君がほとんどなわけだし」
「マドカさんはこうなることをはじめから……?」
「何もかも予想通りって訳じゃないし起こるかどうかも不確定だったけど、大部分はね。彼女らの境遇、起きた出来事を考えれば自然に打ち解けるという可能性は高くないと思っていたわ。ゆずはちゃん達の思いやりに隠れた弱さ――弱さと言っても人間どこかしら持ち得ている部分だと思うけれど、それをリシアちゃんに悟られてしまった。それ故に行きつくべくしていきついたってところかしら」
「それでも、このまま見守っているつもりですか……? 円香」
「っ……」
「セリア……」
リリム達に話しかけながら廊下を歩いてきたのは、リシアちゃんのメイドさんであるセリアさん。影ながら見守っていたであろう彼女はやはり、この状況が心配のようです。
「確かにお嬢様達をめぐり合わせたことによってお嬢様には多大なる影響を与えて頂きました。マイナス側の表情もずっと少なくなっているようで……。しかし今回の件もまたその出来事があればこそ起こり得たこと。状況を作る一端を担った私達の責任もあります。もう少し介入していった方がよろしいのではないでしょうか……」
「そ、そうですよ、セリアさんの言うことにも一理あります。リシアさんにあまり気にしないよう助言するとか……」
「そういう励ましくらいなら出来るかもしれないけど、事態の収拾という見方からすれば私達の言葉や行動なんて、たぶん付け焼刃になるでしょうね。仮にできたとしても、それはせいぜい表向きの関係。結ぶ意味がないくらい簡単な要因であっさりと
「…………」
「と言ってもあなたの不安が無くなるわけじゃないわね。とりあえず時間が必要じゃないかしら。箕崎君達もまだまだ動揺しているだろうし、今はもう少しだけ、様子を見るべきだと思う。結果を求めるのは早すぎるわ。せめて箕崎君……いえ今回は特にゆずはちゃん達ね。彼女達の気持ちがある程度整理できるまでは」
「……そうですね」
セリアさんほどではありませんが、リリムも今回の状況に驚きと不安を隠せません。やはり外から見ているだけでは、人の内側を理解するのは難しいのでしょう。特にマモルさん達は素直な感情を中々表に出さないタイプなのですから。顔を下に向けるリリム達の周りには、重苦しめの空気がいつまでも流れ続けています――。
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