第82話 振り回されるお風呂事情

 優愛ちゃんと別れて部屋へ戻る途中今度はルリトちゃんとリシアちゃんに出くわした僕達。お互いに曲がり角を曲がろうとした廊下でのことだった。

「っ、真衛さん。そろそろお風呂の準備が出来たと思いますよ。真衛さんの都合上貸し切りにしないといけませんでしたので、時間を取らせてしまいました。大部分が敷地内ですけど、景色が見える露天の温泉を楽しんでもらえればと思います」

 ルリトちゃんが話してきた内容は僕のお風呂事情。プールでの更衣室が一つなら当然お風呂も分かれているとは思えなくて、最後の最後に注意書きでも立ててもらいながら済ましたり等するために相談しようと思っていたのだけれど、ちゃんと考えてもらえていたようである。

「ただ、その……お風呂場前でこのみさん達が少しもめていたようですけれど……」

 その言葉を聞いて僕とゆずはさんは顔を見合わせた。苦笑いのルリトちゃんから急を要するほどではなさそうだけど。

「う、うん。とにかく行ってみるよ」

 少し足を速めてルリトちゃん達とすれ違う。後ろのリシアちゃんを通り過ぎようとした時、

「変態ね……箕崎真衛」

 去り際に呟かれたリシアちゃんの言葉。疑問符を浮かべながらも、僕はお風呂場前へと向かっていった。


            〇 〇 〇


「ぜぇったいに認めませんっ!」

 たどり着く前からこのみちゃんの声がこだましている。僕とゆずはさんが見た光景は対面しているこのみちゃんと円香さん。

「えっと……」

 そばで見ていた真実に質問を求める視線を送ると、真実はその意図に気付いてくれたみたいだった。

「円香さんがお兄ちゃんと温泉に入るって言い出して、お姉ちゃんがそれを止めてる状況……」

 真実の一言で理解できる説明には感謝しかない。僕が微妙な表情で何度か頷いている間にも言い合いは続いていく。

「いーじゃない、ちゃんとバスタオル巻くし、使用許可もルリトちゃんからもらったんだから」

「そんなの当たり前ですっ! しかも自分だけじゃなく真実まで巻き込もうとして……」

「このみちゃんが箕崎君とお風呂で二人っきりなんてぜ~ったいに駄目、私の箕崎君がとられちゃうっって言うから妥協案として出したのに、このみちゃんたらそれすら認めてくれないんだもの。折り合いをつけてもらわないとお話は中々まとまらないものなのよ? まあどの道私は止められたって箕崎君の入っているお風呂に侵入するけどっ。バスタオルなら箕崎君も気絶したり追い出したりしないだろうし、二人っきりを阻止したかったら一緒に入るしかないでしょ? ね、真実ちゃん?」

「え? う、うん。ハダカはさすがに恥ずかしいから遠慮すると思うけど、円香さんだけお兄ちゃんと温泉入るのもずるいかなあ~って……」

 僕をちらりと斜め下から見上げながら話す真実。円香さんの言動から僕の逃げ道自体もしっかり塞がれている気がした。

「原因である円香さんが行動を起こさないのが一番じゃないですかっ! あと真衛君をとられるなんて言ってませんっ! 勝手に捏造しないでください!」

「せっかくの温泉なのよ? 箕崎君と入らないなんて損しかないじゃない。私だって真実ちゃんと同じように箕崎君と景色を共有したりお湯につかってまったりしたいし、それだけはゆずれないわ。水着より露出度の少ないバスタオルなんだもの、恥ずかしがるのは矛盾してると思うけど? 私達もう家族みたいな生活してきてるじゃない」

「家族だからって異性とお風呂に入ったりしないと思うんですけど……」

「お~、確かに言われてみればろしゅつど少ないね……」

「真実も納得しそうにならないっ!」

「あとは……ゆずはちゃん?」

「っ……は、はい」

 突然声をかけられたゆずはさんが驚きながらも返事をする。

「この中で一緒に入って安心できなさそうな順番は?」

「っ、じゅ、順番……ですか? その……」

 ゆずはさんは明確に答えなかったけど、一瞬視線がその意思を示したのを円香さんは見逃さなかったらしい。

「真実ちゃん、このみちゃんを納得させるために自分で振った質問だけど、異性より危険だって思われるの複雑よね、いくら箕崎君だからって」

「ゆずはお姉ちゃんの胸何回も確かめたことあるからかなあ……やっぱり」

「っっ……」

 円香さんと真実の聞こえる音量で繰り広げられたひそひそ話。ゆずはさんはちいさくなるしかなさそうで。

「とまあ、誰も箕崎君を男の子として危険視なんかしてないと。これだけの根拠と意思が存在する中でそれでもこのみちゃんは妥協案すらのんでくれないの? このみちゃんも自分自身が入る入らないは自由よ。このみちゃんの要望である二人っきりにならないのは真実ちゃんがいれば達成されてるし、蛇蝎のごとく嫌なんだったら私も強制できないな~。恥ずかしいとか理由をつければいいんじゃない?」 

「っ……言い方が卑怯じゃありませんか?」

「仮にそうだとしても賢いってほめ言葉に受け取っておくわ」

「……あくまで、円香さんを見張るためですからねっ」

「ふふっ、了解。それじゃあ箕崎君とゆずはちゃんは準備してきてね」

 話に入り込む前に決まってしまったお風呂事情。どの道逃げられないのなら、せめて何事もなく終わってくれれば。とりあえずは、そう願い続けたい――。

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