第76話 大きな窓のある最上階での夕食

 わたしは一緒にプールを楽しんだリシアちゃんと会話しながら彼女達の使用するバルコニー付きの部屋にお邪魔させてもらっていました。お留守番していた子猫ののどを時々撫でてあげています。毛なみがピンク色なんて、とても珍しい子猫ではないでしょうか。

「っ、リシアちゃん戻ってたんだ。ごめんねリシアちゃん。騒がしいの好きじゃなかった……?」

「えっ、あっ、えっと、その……」

「リシアちゃん、遊べるようにはなりましたけどまだ完全にお腹の容態が治ったわけじゃなかったので、またひどくなって真実さん達に心配をかけたくなかったそうですよ?」

 扉が開いて真実さん達も戻ってきました。リシアちゃんから真実さん達に誘われていたことを聞いていて事情も把握しているわたしは返答に詰まるリシアちゃんのフォローをしてみたつもりです。心なしか真実さんの顔も明るくなったような気がします。

「振られたわけじゃなかったみたいね真実ちゃん」

「うんっ」

「リシアちゃんにはわたしがついていますので、皆さん気にしなくても大丈夫だそうです」

 私が話した言葉の後にリシアちゃんは真実さんに近づきました。いきなりすぎたのかもしれません。真実さんはびくりと驚く反応を見せます。

「……ごめんなさい、お誘い答えられなくて」

「う、ううん、リシアちゃんもお腹気をつけながらもっといっぱい楽しんでねっ」

 途切れた会話にお話の一区切りを感じたので、これからの予定を皆さんに説明した方が良いですよね。まだまだ皆さんに楽しんでいただくイベントは残っていますから。

「もうそろそろ夕食の時間となりますね。その後はよろしければ外に出て夏祭りに参加してもらえると嬉しいです。夕食はビュッフェ形式でご用意していますよ」

「ビュッフェってな~に? ゆずはお姉ちゃん」

「種類ごとの大きなお皿から好きなものを取ることが出来るんです」

「簡単に言うと食べ放題だよ、真実」

「お~っ! メロンあるかなっ? メロンっ」

 どうやら少なくてもゆずは先ぱ――ゆずはさん達姉妹の方々には好評のようですね、何よりです。

「場所は最上階である三階の中心部です。どうぞたくさんお召し上がりください」


            〇 〇 〇


「わ~ひろ~いっ!」

 夕食のため僕達がやってきたこの広い洋室は、とにかく前方にあるとても大きな両開きの窓が印象的だった。

「ようこそ皆さん、お待ちしておりました。この部屋の注目場所はやはりあの窓の先、この建物で一番大きなバルコニーから見える景色ですよ」

 最上階の中心部ということで、あの窓から外の景色が一望できるらしい。コの字型の建物なので、両側に建物の一部が見える形になるだろう。部屋の真ん中を主体に所狭しと並ぶ料理の数々も魅力的だけれど、あのバルコニーから見える景色は一度目に入れておいても損はないと思う。

「う~ん、でもまずはご飯食べようよお兄ちゃん」

 真実は景色よりも食い気らしい。まあ今は夕食時、お腹が減っている僕の方も景色はお腹がある程度満たされてからにしようと思う。それは苦笑いのゆずはさんや頷くこのみちゃん、にやりとする円香さんも変わらないみたい。和葉さんはくすくすと笑っていた。ルリトちゃんの側にいる僕達と別行動をとることになったリシアちゃんは、芳しくない調子が続くお腹のせいもあるのか和葉さんに小部屋の機械操作で窓を開けてもらい、ルリトちゃんと一緒に景色を楽しむことにしたようだ。ここには私服姿で料理を取るメイドさんとメイド服姿で料理を運ぶメイドさんもいるけれど、あの窓が今まで開けられていなかったのはメイドさん達にとってもう見慣れてしまった景色だからだろう。

 料理をお皿に乗せながら時々窓の方に視線を向けていると、隣にいた真実が僕の心情を察した話題を出してくれた。だからわざわざ真実のお皿にカットされたメロンがいくつも乗っていることにも特に言及しない。このみちゃんもきっとアイスを大量に乗せるのだろうし。

「どんな景色か気になるよね、あとで一緒に見に行こう? お兄ちゃんっ」

 真実に頷き少し止めていた手を再び動かし始める。やがて料理を取り終わるとすれ違う女の人達を避けつつ、ルリトちゃんが用意してくれていた席へと運んでいった。

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