第73話 プールと水着と腹痛と

 どこから楽しもうか悩むプール巡り。とは言っても絶対にこれで遊びたいというような気持ちが僕にあるわけではないので、結局は真実の希望に沿う形で巡ることになりそうだった。

「わお~っ!」

 真実は僕の膝の上で座ったりしがみついたりしながらウォータースライダーを楽しんでいる。続く流れがあるプールでは真実にとって深さがあるので泳ぐのをやめる時僕につかまりつつ休んでいた。

「お兄ちゃん、次いこつぎっ!」

 そうして新しく誘われた波の出るプールの浅瀬で水しぶきをかけられたり。純粋にはしゃいでいる真実がいつもと違う水着姿と水しぶきでよりかわいさが引き立っているように見える。

 しばらくしたらゆったりと過ごしていたゆずはさんも僕達がウォータースライダーのような激しめの遊びを終えたこと、自分がいたプールと僕達のいる場所が近くなったこともあってかこちら側のプールに入ってくるようで。快く迎え入れる僕達に混ざろうとしたゆずはさんだけど、波の力に慣れていなかったのか足を取られて体勢を崩した。

「きゃっ……!」

 咄嗟に唯一支えとなりそうな僕の身体へとゆずはさんはしがみつく。

「す、すみません真衛さん……。ありがとうございます……」

「い、いえ……」

「あの……もう少し波に慣れるまで、私も真実さんと同じようにこのままつかまっていても良いですか……?」

「えっ、でも、このままだとその、胸が……」

「っ……そうなると、私は真実さんより離れなければいけないのでしょうか……」

「い、いえ、そういう訳ではないんですけど……」

 というような遠慮のやり取りを交えている時僕の視界に入ったのは不機嫌な視線。プールの縁に座る一人の女の子から注がれている。

「…………」

「こ、このみちゃん……」

「別に私何も言ってないよ? 真衛君が真実に引っ張られて行ってから私だけ置いていかれたって一人で楽しめるから何とも思わないし、今だって両手に花状態の真衛君にわざわざ私が入っていく必要も見つからないな~なんてことぜ~んぜん思ってないからっ」

 僕と真実が顔を見合わせた後苦笑いを返す中で円香さんもこのみちゃんの後ろから体重を乗せながら便乗しだした。

「そうよ~箕崎君。私も被害にあったことあるけど、関わってくる女の子以外も置いてきぼりにしたりしないように」

「円香さん頭に胸を乗せないでくれませんか胸を……」

「今の箕崎君は私達どころかここにいる女性みんなにいつでもいじられるかもしれない子羊状態なんだから。いわば私達みんなの所有物?。危機感が無いようだけどねっ」

「だから胸を乗せないでくださいって……」

「っ、な、なに言ってるんですか円香さん……?」

 円香さんがにやにやしながら何か不気味なことを言い出しているのだけど――。

「だってそうでしょ? 男の子たった一人でここへと飛び込んでるのよ箕崎君は。興味を持ったらいつでもちょっかいかけて下さいって言ってるようなものじゃない」

「ま、まさかそんな……」

 そういえば雅坂学園での似たような前例があったかもしれないと思い直す。僕が辺りを見回そうとした時だった。

「それは面白いことを聞きましたね~」

 そんな言葉と共に僕は両肩を抑えられ引きずられていきそうにる。聞き覚えのある声の主を確認すれば、そこには運転手のメイドさんとショートカットのメイドさん。

「えっ、ええっ?」

「許可が出たのなら、そろそろ遠慮しなくてもいいのかな?」

「え、遠慮しなくてもって、何のこと――」

「もちろん、さっき仰られた箕崎様の扱い方についてですよ~」

「っ! え、遠慮してくださいっ! 円香さんの発言より僕の意思をっ――」

「箕崎様? まだわかっていらっしゃらないようですね~。さっき私達が試されていると言った真の意味を理解していないように見受けられます~」

「全部知ってるんだよ? こうやってちょっかいをかけられても断れないこと、無下に拒絶できないことっ」

「っっ――!!」

「箕崎様に関わりたいメイド達は他にもいるはずですから、どうかお覚悟を~」

 運転手のメイドさんがそう言う中でショートカットのメイドさんの辺りを見回し頷いたり目線で送られた合図と共に、ぞろぞろと言い表せるくらいのメイドさん達がこちらに集まってくる。

「ま、真実っ」

 僕の意思に賛同してくれるはずと真実を頼ってみたのだけれど――、

「あー、うん、えっと、お兄ちゃんある程度はそういう扱いだと思うよ? それにぼくの方がゆずはお姉ちゃんよりず~っと腕につかまってたのに一度もゆずはお姉ちゃんの時のような反応してくれなかったかなってちょっと思ってたし」

「えええっ!?」

 反対方向を振り向いてもゆずはさんは微妙な微笑みを浮かべている。この場や真実の意見を否定までする気は無いらしい。

「えっと、こ、このみちゃん……」

「真衛君言ってくれたよね? 素直な私でも構わないって。だから知~らないっ。大丈夫だよ、私達も見ててあげるからちょっとは自由が利かない状態を味わってみるといいんじゃない? そういえば雅坂学園での時は後輩達に引き渡そうとしたところを真衛君に言いくるめられたんだっけ」

「い、言いくるめただなんて……。円香さんっ、前にその、円香さん自身からの迷惑以外は助けてくれるって言いませんでしたか?」

「ごめんなさい、箕崎君が困っているかどうかは私の独断と偏見で決められるの」

「困ってますよっっ!!」

「往生際が悪いですね~箕崎様。諦めて身体をゆだねて下さいな~」

「やっ、やめてくださいっ、顔に二人の胸も当たってますからっ――」

「ふふっ、もしそれが役得と感じていただけるのでしたら、なおさら箕崎様の身体は提供されるべきかと~」

 このまま僕は身動きが取れずされるがままになるのを受け入れざるを得ないのだろうか。覚悟しかけた時に軽めのアラーム音がプール内へと響いていく。

「あら、どうやらお嬢様がいらしたみたいです~」

「この状況を見られたら流石にお嬢様だと驚いちゃうかも」

「ですね~、たぶん止められてしまいます~。またいつかということにしましょうか~」

 そんな諦めに似た言葉と一緒に僕は少しずつ解放されていく。姿はまだ見えないけれど、とりあえず来てくれたルリトちゃんのおかげで僕は助かったらしい。でもまあつまりはルリトちゃんが来なかったら誰も止めてくれなかったことになる。

 ようやく安堵の気持ちと一緒に一息つけた僕はそろそろリシアちゃんを探し始める。結構時間が経っているのにまだ合流出来ていないのだ。

 リシアちゃんは隅っこの壁にひっそりと寄りかかっていた。僕がリシアちゃんのもとへ向かうのに気付き、ついてくる真実。僕より先にリシアちゃんへと話しかける。

「リシアちゃんどうしたの? 一緒に遊ぼう?」

「ごめんなさい、その……少し、おなかが痛くって」

「っ、だ、大丈夫?」

 僕と同じように真実も心配そうな表情を見せた。着替えが遅れたのもそういった事情があったのだろうか。

「平気よ、休んでれば治ると思うから……あなたたちはそのまま遊んでくればいいわ」

「そっか……じゃあ治ったらぼく達のところに来てね」

 一緒に遊べないのは残念だけど、こればかりは仕方がない。もう少し遊びながらリシアちゃんの回復を待つために、僕達はリシアちゃんと別れゆずはさん達のところへと戻っていった。

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