藍方院家からの招待状

第68話 彼らはどう対応するのか

 休日のある日、リリムは遊びへと出かけているマモルさん、ユズハさん、コノミさん、マミさんを先回りしながら身を隠しつつ観察しています。そしてリリムと同じ行動をとる人があと二人ほど――。

「似合わない配役だと思うんだけどな……」

「あなたも一度自分が見たことのない箕崎君を直接見たいって言ってたじゃない」

 あまり乗り気でなさそうな男性を連れてきたのはマドカさん。男性の方は普段忙しく一緒にいることは珍しい方ですが、ヤマグチさんと言います。二人共サングラスにマスクを着けて帽子をかぶり、派手めな厚手の服で体形を誤魔化してますね。これからマモルさん達の反応を見ようとしているところです。

「ま、僕達が行くしか方法がないか……」

「今からやろうとしてることは本来悪意が関係するから起こらない事柄だし、こうでもしなきゃ非常時の反応が見れないわ。たとえそうじゃなくてもただでさえそういうのと無縁の人畜無害な生活を送ってる箕崎君達に、偶然適任者が現れて偶然私達と同じような行動を起こそうとするの待っていられないでしょ?」

「違いない……」

 二人はそう言いながら楽しくお話しつつ歩いてくるマモルさん達の前へと出ていきました。明るく穏やかな小道ですが、今のところマモルさん達とマドカさん達以外は誰もいない人通りの少ない場所です。当然怪しい恰好のマドカさん達は目立ちます。

「おやおや、女の子三人も連れて仲良くお散歩とは、いい御身分じゃないかい学生君?」

 ヤマグチさんの声を低くした演技も中々様になっていると感じました。しかしそれでもどこかしら普段の爽やかさが抜け切れていないような気がします。

「いいわね~青春ってやつ? 見るからに平和そ~な人生送ってきてる感じだし。あ~やだやだ、見てるとほんとにアタシ気分悪くなるんだけど。グッチーちょっとアタシの気持ちスッキリさせてくれない?」

 マドカさんは普段もどこかつかみどころのない性格なので、ヤマグチさんより違和感のない演技です。

「え、えっと……何か御用ですか? 僕達に……」

 不安げな顔を浮かべるユズハさん達を背にして、同じように気後れした表情で一番前にいるマモルさんが問いかけます。

「用といえば用事はあるかな。隣の人がちょ~っとイライラしてるからさ。ちょっぴり痛い目見てくれない? 学生君」

「そ、そんな……やめてください、僕達普通に話していただけなんです……」

 ヤマグチさんはマドカさんの合図と共にマモルさんを片手で押しました。それほど強く押したようには見えませんでしたが、マモルさんは後ろにいたユズハさん達の足にひっかかって倒れてしまったようです。ヤマグチさんも予想外だったようで、少し戸惑った表情を見せながらマドカさんを見ます。もうこれくらいにしておいたほうが――。表情はそう物語っているようです。

「っ……」

「お兄ちゃんっ!」

「真衛君っ!」

「真衛さん……」

「お、お願いします……どうか穏便に、穏便に……」

「ふふっ、グッチーにビビってるの? ねえグッチー、アタシは後ろの女達の方が気に食わないわ。そんなビビりまくってるのなんかほっといて、後ろの三人に痛い目見せちゃった方が清々しそう。やっぱり異性より同性の心境の方が分かりやすいっていうか?」

 マモルさんの声を聞いてもマドカさんはまだ続けるつもりのようです。促されたヤマグチさんは仕方なさそうに、ユズハさん達へとゆっくり手を伸ばします。これ以上は水島流古武術が飛んでくる。ヤマグチさんは覚悟していたかもしれません。

「っ!」

「…………」

 しかしユズハさん達が動く前に、ヤマグチさんの手は止められていました。無言のまま素早く立ち上がった真衛さんの手によって――。

「ゆずはさん達には、触れないでください……」

「……」

 芯の宿った目を向けられたヤマグチさんは、感心したのではないでしょうか。いつの間にか表情から戸惑いの様子が消え失せています。

「……抵抗する気? グッチーに勝てると思ってるの?」

 マドカさんの言葉にも怯まずマモルさんはヤマグチさん達に向けた視線を崩しません。

「わかりません。ですけど、ゆずはさん達を逃がす時間くらいは作るために全力を尽くします」

 ヤマグチさんの掴まれた手が少し震えたように見えたことから、マモルさんが力を込めたことが読み取れました。コノミさんもマミさんも臨戦態勢。ユズハさんは警戒を解かずに携帯電話を取り出しています。

「な、なによ……急にやる気になっちゃって。グッチーが負けるとは思わないけど、なんか面倒くさくなりそうだし……いこっ、グッチー」

 マドカさんはようやく撤退を決めたようです。ヤマグチさんを連れてこちらに逃げてきました。ほっとしている様子のマモルさん達から離れると変装を外します。

「直接見て、どうだった?」

「……見に来て良かったかな」

 リリムも思いましたけど、マドカさん達にとっても一定の成果は得られたようですね。マモルさん達に対して相変わらず罪悪感は残りますが、リリム達はこれからも見守っていくつもりです。

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