例えるならそれは、平和のねじが1本とれかけたような……

第62話 忘れられない予期せぬ来訪者

「みっがさっきく~ん」

 水島家で今日もありふれた日常かなと思いながら自分の部屋で過ごしていた僕。まあこれも日常の一部と言えなくもないのだけれど、円香さんの相手をさせられている。嫌という訳ではない。ただもう少しスキンシップの度合いを落としてもらえると助かるかもしれない。今だってわざわざ僕のベッドの中に潜り込んできて、仰向けでいる僕を上から見下ろしているのだから。

「わお、箕崎君の体温でほかほかだ~」

「結構入ってますから……それに、その格好なのでより感じやすくなってるんですよ……」

 円香さんは水島家に完全に慣れてしまい、上半身は胸元の開いた大きめのワイシャツ一枚、下半身はワイシャツでほとんど隠れるからと下着のみで過ごしている。アパートにいた時と違って外に出る機会が少なくなったのもあるだろうし、円香さんいわくアパートの時から部屋着はこれだったそうだ。最初はこのみちゃんが色々言っていたのだけれど、円香さんに受け流されるうちに諦めてしまったらしい。そして楽な体勢をとるためなのか頻繁に動くので、その――いろいろやわらかい感触がこすれる。

「円香さん、あんまり動かないでください……」

「動かないでいるのって案外辛いこと知ってるでしょ? それに箕崎君が私の動きに対してどう動くか、どの部分がどう反応しちゃうか逃さず確認しておきたいのっ」

「も、もう出ます……」

「だ~めまだっ、もう少し箕崎君の温もり感じさせて? あったかくて気持ちいいからっ」

 僕は小さなため息をつきながらも、仕方なく円香さんがやってくる前からしていた携帯電話を弄る作業に戻った。円香さんも携帯電話に映る内容に触れてくるので自然と生まれる会話。主に背中とかその他の場所にも感じるやわらかい感触が気になるけど、このまま時間が過ぎればそのうち円香さんも飽きて僕を解放してくれると思う――。


            〇 〇 〇


 子猫の姿であるリリムは水島家居間でいつものようにのんびりとくつろいでいます。平和な時間が流れるのはユズハさんもコノミさんもマミさんもおんなじですが、コノミさんにはちょっと気にかかることがあるようです。

「…………」

「お姉ちゃんそんなに気になるならお兄ちゃんの様子見てくれば? 円香さんとはずっと過ごしてきてたみたいだし、見ている限りはお兄ちゃんにとっても日常の一部になってると思うよ?」

「何度か確認しに行って毎回不発引かされたあげくからかわれるから、私もそうは思うしもう確認しなくてもいいけど、だからってあんな格好で二人っきりなんて……この家の中でその、破廉恥なこととか、あんまりしてほしくないし……」

 コノミさんの心配事はとてもかわいらしくてリリムも楽しめるので、今のところ問題もなさそうですし微笑ましく見守らせてもらいましょう。第一リリムは今子猫です。話しかけることも出来ない訳ではありませんが、わざわざ楽しみを潰すようなことしたくありません。リリムはしたたかなのです。ゆっくり読書を嗜んでいるユズハさんのやわらかい膝の上、太ももの上にのりながら、身体を撫でてもらいます。そう思っていたら、突然水島家の呼び鈴が鳴りました。

 ユズハさんが本を閉じて応対します。リリムはユズハさんの太ももを堪能できませんでしたし、邪魔した来訪者に少し興味があったので、ユズハさんについていきました。やわらかな雰囲気だったユズハさんの声が、相手の声を聞いた途端少し張り詰めたことがリリムにも伝わります。ユズハさんがコノミさんやマミさんを呼んだ後緊張しながら通したその相手は、扉を開けてリリム達の前に姿を現しました。

「失礼します。この度はご面会を許可頂き、ありがとうございます」

 メイド服に身を包んだ女性、セリアさんと、制服に身を包んだ少女、リシアさんが、静かに立っていたのでした――。

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